My Human Gets Me Blues

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2012-01-01 [長年日記]

_ [Life] 賀正

あけましておめでとうございます。昨年は日本のみならず全世界的に厄年という感じでしたが、今年は若干ましになるとよろしいですね。

私自身はと言えば、昨年は人生の転機というようなものもいくつかあり、おまけに多くの人に迷惑を掛けまくって全く言い訳のしようがないのだが、今年はもう少し落ち着いてちゃんとした人生を送りたいものである。積み残しの仕事も、一つずつ着実にこなしていきたいとは思っております…。


2012-01-02 [長年日記]

_ [Jazz] Brothers-4 / Sonny Stitt and Don Patterson

Brothers 4(Sonny Stitt/Don Patterson)

ビッグ4とかグレート4とか大きく出ないであくまでブラザーズ4というのが慎ましいが、ようするにスティットが擁した60年代不動のレギュラー・トリオ(パターソンがオルガン、ビリー・ジェームズがドラムス)にギターのグラント・グリーンがゲスト参加、なので普段と違い4人でやっていますという企画。

スティットとパターソンは基本的にこれでお別れなので、ある意味一時代を締めくくるというマイルストーン的作品でもあるのだが、そういうしゃちこばったところは微塵もなく、いつも通りの演奏が寸分違わぬルーチンで延々と展開される。じゃあ退屈かというとそういうわけでもなく、いつも通り楽しい。当たり前のことを当たり前にやるというのは言うほど簡単ではないのである。しかもスティットらの場合、「当たり前」のレベルがそもそもべらぼうに高いのだった。レパートリーもまあ、あんまり代わり映えはしないのだが、中ではAlexander's Ragtime Bandのような古い曲がむしろ新鮮に響いて興味深い。

それにしても、ここでのビリー・ジェームズとか、ジャック・マクダフのグループを長らく支えたジョー・デュークスとか、素晴らしいドラマーたちだったと思うのだが、大して名を揚げることなく消えてしまいましたねえ。確かにイドリース・ムハマッドとか、バーナード・パーディとかほどの強烈な個性はなかったけれど…。

_ [Music] Live365のインターネット・ラジオ局を復活させてみた

むかしむかし、あるところに、というサービスがあった。というか今でもあるんだが、音楽を流しまくれるネット・ラジオを誰でも簡単に開設できるという触れ込みで、日本でもそれなりに話題になったものである。まあ、手が後ろに回る覚悟さえすればどのみち誰でも出来たわけだが、金を払う代わりに、Live365が著作権や隣接権の処理を適当にやってくれるので、それなりに合法的に出来るというのがミソだったわけだ。もちろん私なども飛びついたくちだが、当時はいろいろ他にも面倒なことがあって、それっきりになっていた。それが3年くらい前。

で、今日になってカードの支払いなどいろいろ見直していたところ、使っていなかったのに数年にわたりLive365へ金を払い続けていたことに気づいて愕然としたのである。愕然としたついでに、手元にあったMP3をがんがんアップロードしてみたので、この日記で取り上げるような、私の好きな(しかし世間的にはまるで見向きもされない)音楽がジャズを中心に7時間くらいシャッフルされて延々と流れるというネット・ラジオが出来ました。いつの間にかウィジェットも用意されていて、この日記の右側にあるサイドバーに設置してみたので、そこから聞いてみてください(個別の日のページではなく、日記のトップページを見ないとウィジェットは表示されない)。プレーヤのページを見ると、他にもWindows用のクライアントやネットラジオ対応ハードウェア各種(含Kindle Fire)に加え、AndroidやiPhone用のアプリもあるようだが、私は試しようがない。たまに広告のジングルが入るが、有料のVIP会員になると広告フリーで聞けるようだ。まあ、英語が分からない人であれば、英語の広告も海外のFMみたいで、むしろ雰囲気作りに一役買うくらいかもしれない。Amazon.comで買い物ができる人であれば、ワンクリックでかかっている曲のMP3やら収録されたCDやらを買うことも出来る。

しかし、3年前と比べて、圧倒的に簡単になったという感がひとしおである。Live365そのものにもいろいろ改良が加わったということもあるんだが、そもそもコンピュータやネットワークの性能が上がって、余計なストレスがだいぶ減ったのですね。Live365はちょっと登場が早すぎたのかもしれない。


2012-01-03 [長年日記]

_ [Gadget] Olympus LS-20Mを買った

OLYMPUS リニアPCM ICレコーダー LS-20M ブラック 2GB(同梱) SDカードスロット フルハイビジョン動画機能 LS-20M

最近は会計不祥事でおなじみのオリンパスが去年出した、リニアPCMレコーダに動画撮影機能も付けてみましたという製品(オリンパスの製品ページ)。USBでコンピュータにつなぐと高性能マイク付きウェブカメラにもなるので、Ustream等のリアルタイム中継にも使える。音声はWAVかMP3、動画はMOV(MPEG-4/AVC H.264)でSD/SDHCカードに記録されるので、YouTubeやニコニコ動画等にアップロードするのも簡単だろう(まだやったことないけど)。マイクロHDMIでの出力や、外部マイクやラインからの入力、リモコン(RS30W、別売)の使用も出来るようだ。

そもそもは三脚に取り付けられるウェブカメラ(最近ではMSのQ2F-00008やロジクールのC615などいくつかある)を買うつもりだったのだが、なぜかこいつを買ってしまったのだった(もちろんこれも三脚穴付き)。ウェブカメラとしては高いが、本格的なリニアPCMレコーダとしては実売だとちょうどいいくらいの価格なので、お買い得な感じがしたのである。似たような方向性の製品としてはZOOMのQ3HDがあるが、LS-20Mのほうがブツとしての見栄えは良い。ちなみに、これの液晶は2.0インチという昔のデジカメでは良くあったが今はほとんど見かけないサイズなので、液晶保護シートはフリーサイズのやつを買って自分で切りましたです。

何度か講演や勉強会のネット中継や録画をしたことがあるのだが、そういうときにネックになるのは、動画よりも音声だったように思う。ウェブカメラ内蔵のマイクで録ると大体悲しい結果になるし、別途外部マイクを持っていくのはめんどくさい。その点、このLS-20Mは元がちゃんとしたリニアPCMレコーダなので、リミッターに加えて空調などの雑音を消すローカットフィルタも自前で持っているし(100Hzと300Hz)、試しに先日知り合いとの会話を録ってみたが、こと音の扱いに関しては相当しっかりしているという印象だ。

では動画のほうはどうかというと、こちらのほうは私はど素人なので大したことは言えないのだが、フルハイビジョンで撮れるだのなんだのというスペック上の高性能ぶりはともかく、雑駁な印象としては小寺信良氏の評価に近い。全くの憶測だが、オリンパスの開発陣は、これが使用されるシチュエーションをかなり決め打ちで考えていたのではないか。というのも、

  • 外部電源が確保できる場所で

  • 演者の前1~2mくらいの所に着席して陣取って

  • 三脚を付けて設置

という状況では、ごちゃごちゃ工夫しなくとも、スイッチオンで簡単にきれいな映像と音声が録れるのである。ゆえに、講演や講義、勉強会、あるいはカラオケや音楽のリハ等の記録や中継には相当な威力を発揮するデバイスだと思うのだ。私の主たる用途はそのへんなのでベストマッチなのだが、例えばライヴの隠し撮りをしたいとか、そういうけしからん向きには、なにせ電池が持たない(動画撮りの場合せいぜい一時間くらい)なので明らかに向いていないと思います。ちなみに電池は汎用のLI-42Bなので、安い互換品も出回っているようだ。

本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]

_ 削除Stanley Hageman [削除http://in1drugs.medpharmsales.com/safe-place-to-purchase..]


2012-01-04 [長年日記]

_ [Jazz] R.I.P. Sam Rivers, 1923-2011

フューシャ・スイング・ソング+4(サム・リヴァース)

Contours(Sam Rivers)

昨年末(12/26)にサム・リヴァースが亡くなっていた。享年88歳。

88歳というと普通は引退して老人ホームか墓に入っている年齢だが、リヴァースの場合80代に入っても現役バリバリ、それも「昔の名前で出ています」という感じではなく、平然とトリオやらビッグバンド(リヴビー・オーケストラ)やらを率いて一線でライヴをやっていたので、唐突というかなんだか意外な感じすらした。90年代末にフロリダへ引っ越した後、地元の腕利きを集めて再編した新生リヴビー・オーケストラは、ここ数年フリーからファンクまでなんでもこなすかなり強力なビッグバンドに育っていて、そのうち生でも見たいと思っていただけに、そういう意味でも惜しい。

リヴァースというと、たまたまマイルス・デイヴィスのグループにいたときに来日して録音も残している(マイルス・イン・トーキョーなど)こともあって、日本ではマイルスとの絡みが強調されることが多いが、あれは結局のところトニー・ウィリアムスが強引に引っ張り出しただけで、マイルスの音楽との共通性は元々そんなに無い。世代的にもリヴァースのルーツはコーダルなビバップで、モーダルなジャズの影響をほとんど受けずにいきなりフリーに突入という点ではエリック・ドルフィーと似たような経緯を辿っている。二人ともマイルスに嫌われていたのは興味深い一致だ。

60年以上にも及ぶ長いキャリアを誇るリヴァースだけに、優れた作品はいくつもあるが、個人的に良く聞くのはやはりBlue Noteに残した2枚、ということになってしまう。というかまあ、Beatriceですよね。やはり。

この曲が入っているFuchsia Swing Songはリヴァースの初リーダー作なのだが、1964年の録音だから、41歳のときなんですね。ちょっと驚いた。プロとしての活動は1950年くらいから始めているし、ちゃんとした録音も1961年にタッド・ダメロンのサイドマンとして経験済み(Blue Note録音、お蔵入りしていたがThe Lost Sessionsで日の目を見た)だが、レコーディング・キャリアとしては非常に遅咲きの人だったことが分かる。助走が長かった分、航続距離も長かった、ということなのだろうか。この曲の、叙情的でありながら過剰にベタつかないさっぱりした味わいは、思えばリヴァースの音楽全体に通じた美点だったように思う。


2012-01-05 [長年日記]

_ [Jazz] Sax Appeal / Various Artists

Sax Appeal(Various Artists)

出来合いのピンナップを適当に貼り付けただけにしか見えない手抜き感満載の悪趣味ジャケットに、サックスというものを知っている人であればおそらく誰でも思いつくであろうダジャレがタイトルという、およそ購買意欲をそそられないような代物だが、実のところ中身は、50年代にシカゴの名門Vee-Jayレーベルで録音されたジャズっぽいR&B(いわゆるホンカーもの)を集大成した結構貴重なコンピレーションなのだった。私はずいぶん長いことこれを探していたのだが、ついにCDの形では手に入らず、Amazon MP3で買いました。コンピ盤は一度市場から消えると探すのがとても難しいのですね。Amazon MP3さまさまである。

最初に出てくるのはテナーサックス奏者、ジュリアン・ダッシュの演奏だ。アースキン・ホーキンズ楽団で活躍し、名曲「Tuxedo Junction」を共作した人だが、この人はステージで走るのでダッシュというあだ名が付いたとかいうある種の偉人で、大変に勢いがある。というか勢いしかない。このアルバムには1954年録音の「Zig Zag」など5曲が収められている。まあ大体がこんな感じの音楽です。

ちなみにピアノを弾いているのはオルガニストとして高名なハンク・マー、ドラムスはケニー・バレルの名作Midnight Blueでドラムを叩いていたビル・イングリッシュである。

次に出てくるのは、後年ヴォン・フリーマンなどとも共演していたベーシスト、デイヴ・シップのコンボの演奏で、そもそも私はこの音源が聞きたくて探していたのだった。というのも、ここでピアノを弾いているのが、実はこれがデビュー録音となる若き日のアンドリュー・ヒルなのである。R&Bと言うにはやや場違いと言わざるを得ないバップ魂溢れる演奏がまじめに展開されるのだが、アルトサックスを吹いているのは夭折した知られざる名手、ポーター・キルバート。

次に登場はベテラン・ピアニストのトミー・ディーンのグループで、メンツでいうと若き日のオリバー・ネルソンがアルトで参加しているのが目を惹く。といっても別に目立つ活躍をしているわけではないのでパス。この後なぜかビバップ・テナーの名人であるウォーデル・グレイの演奏が収録されているのだが、これは彼が亡くなる数ヶ月前に録音されたラスト・レコーディングのようだ。Oscar's Bluesというのはオスカー・ペティフォードのBlues In The Closetですね。

で、さらにホンカーの王様ビッグ・ジェイ・マクニーリーのBig Jay's Hopというのが続くのだが、曲名から容易に察しが付くようにビッグ・ジェイの大ヒット曲であるDeacon's Hopの焼き直しで、正直そんなに大したものではない。かつて来日したこともあるビッグ・ジェイの途方も無さに関しては、田中啓文氏のジャズに棲む怪物たちが必見である。もう演奏はしていないと思うが、ビッグ・ジェイはまだご健在のようでなによりだ…とここまで書いてちょっと探してみたら、2010年のライヴの動画があって腰が抜けた。83歳でこれですか。いったいどういうことなんですかね。

次に出てくるアル・スミスというのは、一応ベーシストなんだが楽器は全然弾けなかったそうで、でもバンドのマネージメントには非常に長けていたため彼名義の録音が当時のVee-Jayには多く残されている。音楽的にはテナーの名手レッド・ホロウェイがリーダーのバンドと言えよう。

さらにテキサスの怪物テナー、アーネット・コブの演奏が2曲、ポール・ウィリアムス楽団などで活躍した典型的なホンカーのノーブル・ワッツの演奏が3曲と

まことにお腹いっぱいの陣容で、大変満足いたしました。少なくとも私は。


2012-01-06 [長年日記]

_ [Jazz] The Most Happy Piano - The 1956 Studio Sessions / Erroll Garner

THE MOST HAPPY PIANO THE 1956 STUDIO SESSIONS(2CD)(ERROLL GARNER TRIO)

エロール・ガーナ―というと、ほぼ自動的にConcert By The Seaが口端に上るが、あれは内容的には死ぬほど素晴らしいものの、いかんせん音質がよろしくない。このCD2枚組は、翌年にガーナ―がトリオで録音したほぼ全ての録音を集大成したもので、サイドメンこそ違うがガーナ―自身の演奏水準はConcert By The Seaに匹敵するし、スタジオ録音なのでもちろん音質的にも何ら問題ない。オリジナルのLP4枚、「The Most Happy Piano」「He's Here! He's Gone! He's Garner!」「Garner Encores in Hi-fi」「The One And Only Erroll Garner」はおそらくどれもCD化されていないし、オムニバス盤などに分散収録されたものも集めているので、そういう意味でも貴重なコンピレーションと言える。さらに、若干2枚目のCDの時間が余ったと見えて、50年代初頭のトリオ演奏がおまけとして7曲追加されているが、これらもそれなりに珍しい音源である。

個人的には、CD2の5曲目にMy Lonely Heartが収録されているのがとてもうれしい。これは「Jazz Omnibus」というその名の通りのオムニバス盤に1曲だけぽつんと収められたもので(他はサッチモやエリントンなどの演奏)、入手がとても難しかったのである。どちらかと言えば素朴なメロディを若干フェイクしながら淡々と弾いているだけなのだが、ロマンチックな時のガーナ―の最良の部分が全て出た名演だと思う。

行きがかり上なんだかけなすような感じになってしまったが、Conceret By The Seaも仮にもピアノを弾くものなら必ずなにがしかのインパクトを受けるはずのものすごい演奏であることは間違いないので、機会があればぜひどうぞ。


2012-01-07 [長年日記]

_ [Jazz] Junior's Blues / Junior Mance

Junior's Blues(Junior Mance)

デビュー作のJuniorに続き、ジュニア・マンスは1960年から1962年にかけてRiversideやその傍系レーベルJazzlandに立て続けに6枚のリーダー・アルバムを残す。The Soulful Piano Of Junior ManceJunior Mance Trio At The Village VanguardThe Soul Of Hollywood(1967年のTuba盤That Lovin' Feelin'と抱き合わせでCD化)、Big ChiefJunior's BluesHappy Timeがそれらの作品だが、この中では1枚目のThe Soulful Pianoを褒める人が多いような気がする。あれももちろん悪いわけではないのだが、個人的にはベースやドラムスとの一体感に欠けるような気がして、あまり聞かない。

どちらかと言えばこのJunior's Bluesで組んでいるボブ・クランショウ、ミッキー・ローカーのリズム・チームのほうがマンスとの相性は良いと思う。特に、ローカーはあまり話題にならないが個人的には大好きなドラマーだ。ジャケットも黒が基調でかっこいい。


2012-01-08 [長年日記]

_ [Gadget] プラチナ プレスマン

プレスマン シャープペン

シャープペンシルなど、小学生か中学生のころ以来まともに使ったことがなかったのだが、最近ではまた結構使うようになった。反故紙の裏にさっとメモ書きやらいたずら書きやらするには、裏抜けもしないしちょうどいいんですね。一般的なシャーペンの芯の太さは0.5mmだと思うのだが、水性ボールペンに慣れている身としてはもう少し太くてシュッと書けるのはないかと思い、別件で行った銀座伊東屋をふらふら見て歩いていたらこれを見つけたのである。

名前の通り新聞記者や速記者向けという触れ込みで、1978年からデザインが変わっていないというLAMYも真っ青の超ロングセラーだが、2~300円くらいのリーズナブルな価格だ。値段にふさわしく見かけは何の変哲もない安物シャーペンだが、0.9mmの2Bという、太くて柔らかい芯が使える。製図用などではもっと太い芯もあるが、これ以上になると芯の先をいちいち自分で削ったりしなければならないので、実用性という点ではこのあたりが限界だろう。なお、0.9mmの替芯自体は普通に市販されているが、プレスマンの専用替芯というのもあり、普通の芯より長いらしい。

私は全然知らなかったが、プレスマン信者のような人がかなりいて、その筋では有名なものらしい。確かに、ちょっと今まで体験したことがない不思議な気持ち良い書き味である。世の中広いですね。


2012-01-09 [長年日記]

_ [Jazz] Snowflakes / Various Artists

Snowflakes(Various)

ジャケ写のせいというわけでもないのだが、冬になるとこの2枚組アルバムが聴きたくなる。ドイツのMPSレーベルに残された「ムード・ミュージック」のコンピ。ムード音楽といってもいわゆるムード歌謡ではなくて、ラウンジとかイージーリスニングとか、そういうふうに呼ばれることが多い音楽である。エレベーターの中とか、病院の待合室とか、そういうシチュエーションでいかにもかかっていそうな、聞いていて全くストレスのない音楽だ。

この手のものはジャズが主食の人間には大方バカにされる運命にあるのだが、フリーキーにサックスでがなるだけが人間能ではない。フランシー・ボーランらヨーロッパのアレンジャーたちに加え、ネルソン・リドルやクラウス・オガーマン、ロバート・ファーノン、あるいはジョージ・デュークといった、アメリカのその筋の一流どころが手がけたアレンジは、やりすぎとすら言えるほどの音楽的技巧と洗練の極致を示していて、何と言うか、額に青筋立てて波風立てない音楽をやるというような、妙な倒錯までここには感じられるのだった。例えばこんな奴です。

まあ、そうは言っても結構退屈な、本当にエレベーター・ミュージックとしか言いようがないものもいくつか入ってはいるのだが、どうせBGMにするならこれくらいのレベルのものがいいですね。数曲はオリジナル盤がCDなどで再発されているが、事実上ここでしか入手できない音源(例えば冒頭のシンガーズ・アンリミテッドのジングルなんかはたぶんそう)もあるので、そういう意味でも貴重。


2012-01-10 [長年日記]

_ [Jazz] Bottom Groove / Wild Bill Moore

Bottom Groove(Wild Bill Moore)

マーヴィン・ゲイの有名なWhat's Going Onでは、数カ所でサックスが印象的なソロをとるのだが、あれを吹いていたのがこのワイルド・ビル・ムーアである。テキサス出身だがデビューはシカゴ、その後ロサンジェルスで一旗揚げて、後年はデトロイトを拠点にモータウンのバックでも活躍と、サックス一本サラシに巻いた流れ鳥ホンカーだが、晩年はまた西海岸に戻り、事故で顔が滅茶滅茶になったあとのパーシー・メイフィールドのライヴ盤とか、やはり晩年を迎えていたビッグ・ジョー・ターナーの傑作Things That I Used To Doにも参加していた。豪放と言うよりは単に荒い/粗い感じの吹きっぷりなのだが、音をちぎって投げつけるようなパワフルさに加えて妙に器用なところもあり、独特の魅力がある。そういえば、彼がかつて録音した"We're gonna Rock, We're gonna Roll"という曲名が「ロックンロール」という言葉の直接の語源という説もあるそうです。

これはムーアが60年代に残した2枚のリーダー作LPをCD1枚にまとめたもので、前半の「Wild Bill's Beat」相当分はジュニア・マンスのピアノ、後半の「Bottom Groove」相当分はジョニー・ハモンド・スミスのオルガンが付き合っている。個人的にはムーアの若い頃のヒット曲「Bubbles」の再演に加えてマンスの素晴らしいブルーズ・ピアノも聞ける前半のほうが好きだが、後半もムーア本人は悪い出来ではない。ただ、ハモンド・スミスのピラピラした音色がねえ…。


2012-01-13 [長年日記]

_ [Jazz] Legends Of Acid Jazz / Billy Butler

Legends of Acid Jazz(Billy Butler)

ビリー・バトラーはスタジオ・ミュージシャンとしても長年活躍した職人肌の名ギタリストだが、これは彼がプレスティッジ・レーベルに残した4枚のLPのうちの2枚、1968年録音の「This Is Billy Butler!」と、1970年録音の「Night Life」をカップリングした徳用CD。プレスティッジのこのへんの作品は、昔アシッド・ジャズなるものが流行った際に「Legends Of Acid Jazz」という統一タイトルの下でまとめてCD化されたのだが、アシッド=LSD=サイケというイメージから来たのであろうど派手なジャケットとは裏腹に、中身はどちらかと言えば渋めのソウル・ジャズです。

純ジャズからR&B、ソウル方面までありとあらゆるセッティングで活躍したバトラーだけに、良く言えばバラエティに富んだ、悪く言えばやや焦点がぼけ気味の、しかしどれも超ハイクオリティな演奏が楽しめる。そもそもこの人はギターがやたらうまいのだが、加えて飛び道具的小技も豊富で、ベース・ギターとかいうもの(どうやらエレベとは違うらしい)を使ってみたり、ピチカートでつまびく独特の奏法(当人は「ヴァイオリン奏法」と呼んでいたらしい)を繰り出してみたり、あるいはどうやら弦の上でスティール・ギター風に指を滑らせていると思しきやはり独特の奏法を駆使してビュンビュンミュンミュン言わせてみたり、やりたい放題である。特に最後のは、バラード曲やボサノヴァものでなかなかの雰囲気を醸し出しているが、まあノベルティですな。

とはいえ、個人的にはやはり、1曲目や5曲目のようなやや遅めのテンポのブーガルーで生み出される、ゆったりとしたグルーヴが気持ちよい。ヒューストン・パースンもいつもながらの好演で、びしっと場を引き締めている。これが1曲目です。


2012-01-15 [長年日記]

_ [Jazz] Free For All / Art Blakey

Free for All(Art Blakey & Jazz Messengers)

このところあれやこれやと疲労が溜まっていたようで、仕事をする気にもなれずどうも冴えないのだが、そういうときにはガツンと来る音楽が聞きたくなる。で、真夜中にも関わらず大音量で(もちろんヘッドホンです)これを聞き始めたが、やっぱすげえすよ。

フレディ・ハバードのトランペット、カーティス・フラーのトロンボーン、そしてウェイン・ショーターのテナーサックスという強力な三管編成のジャズ・メッセンジャーズは、このアルバムを吹き込んだ直後にハバードが抜けて終わるのだが、そういう事情もあってか、ここではまさしく最後の大爆発というような体の熱演を繰り広げている。はっきり言えばブレイキーは何らかのクスリの影響下にあると見えて、1曲目などは明らかにノリがおかしい(拍が裏返ってフロントが戸惑ったかのように聞こえる瞬間もある)のだが、なんというか、そんな細かいことはどうでもよい叩きまくりの迫力に圧倒される。背後からブレイキーに煽られまくったショーターもものすごい熱演で、途中はほとんどテナーとドラムの二者だけによる果たし合いという風情すらある。他の曲も決して悪い出来ではない(むしろものすごく良い)のだが、個人的にはこの1曲目だけでおなかいっぱいです。ジャズに何の関心も無い人が聞いても、なにがしかのインパクトはあると思う。


2012-01-20 [長年日記]

_ [Jazz] Vintage 1950s Broadcasts From Los Angels / The Johnny Otis Show

Vintage 1950s Broadcasts from Los Angeles(Johnny Show Otis)

ジョニー・オーティスが亡くなったらしい(朝日新聞の記事)。享年90歳。

イオニス・アレクサンドレス・ヴェリオテスという本名からも明らかのように、この人は実は黒人ではなくギリシャ系移民の子なのだが、子供のころからとにかく黒人音楽が好きで、黒人のように暮らし、黒人ぽく聞こえるという理由でわざわざオーティスに改名したという剛の者である。駐米トルコ大使の子なのにブラック・ミュージックにはまってしまったアトランティック・レーベルの創始者、アーティガン兄弟と同じパターンだ。米西海岸の音楽というと、ウェストコースト・ジャズやサーフ・ミュージックの印象が強いので白人的という感じがするかもしれないが、実は真っ黒なR&Bも盛んで、1940年代から50年代にかけては黒人のホンカーも多く活躍していた。このへんの事情はHonk! Honk! Honk!というその名の通りホンカーばっかりの夢のようなコンピを聞くとよく分かる。

オーティスは本来ドラマー兼ヴァイブ奏者なのだが、下手というわけではないにせよ、それほどのものでもない。歌も歌うが、これまた大したものではない。演奏者としてはぱっとしない代わり、彼はバンド・リーダーとしての才能には恵まれていて、ロサンジェルスを拠点にビッグバンドのジョニー・オーティス・ショウを率いて長年人気を維持した。人材の発掘や育成にも独特の眼力があり、歌手のリトル・エスタ―・フィリップスやコースターズの面々、ジェームス・ブラウンのサウンドの要となったギタリストのジミー・ノーレン、夭折したジャズの名ベーシスト、カーティス・カウンスや、先日触れたビッグ・ジェイ・マクニーリーといったあたりがオーティスのバンド出身である。また、ラジオDJとしても往時は大変な人気があり、一週間に6日、それも夜の6時から9時というゴールデン・タイムに3時間番組を持っていたほどだという。この手の番組を愛聴していた一人が他ならぬフランク・ザッパで、マザーズのデビュー作Freak Out!には影響された人物の一人としてオーティスが挙げられており、自作にもオーティス一家のドン・シュガーケイン・ハリスや、オーティスの息子であるギタリスト/ベーシストのシュギー・オーティスを起用するなどしている。ザッパの口ひげも、元はといえばオーティスの真似だったらしい。

というわけで、このCDは人気絶頂時のオーティスの、ラジオやらテレビやらの番組の録音をそのまま収録したものである。音質はややムラがあるものの、大体は良好と言える。番組なので、オーティス・ショウの演奏だけではなく、他のアーティストの録音や番組ジングル、スリム・ゲイラードとの小芝居、はては広告さえも出てくるので、そのへんは聞く人を選ぶと思うが、50年代にタイムスリップしてラジオを聴いていると思えば良いだろう。もちろん当たり曲の「ハーレム・ノクターン」や「ウィリー・アンド・ザ・ハンド・ジャイヴ」も出てくる。まあ、後者に関しては、実のところ個人的にはオーティスのオリジナルよりキング・ビスケット・ボーイのかみつくようなカバー(King Biscuit Boyに収録)のほうが好きなのだが…。


2012-01-21 [長年日記]

_ [Jazz] The Early Show, The Late Show / Etta James and Eddie "Cleanhead" Vinson

Blues in the Night, Vol.1: The Early Show(Etta James/Eddie Cleanhead Vinson)

Late Show(Etta James/Eddie Cleanhead Vinson)

エッタ・ジェイムズも死んでしまった(朝日新聞の記事)。ドラッグやら病的な肥満やらに悩まされ続けた人生からすれば、73歳まで生きたというのは上出来の部類なのかもしれない。ちなみにこの人も、ジョニー・オーティスの引き立てでレコード会社と契約したのだった。日本ではそんなに知名度はないと思うが、グラミーやらロックの殿堂入りやら、主立ったアメリカの音楽関係の賞は総なめにしている偉大な歌手である。全盛期のチェス・レーベルが題材の2008年の映画、キャデラック・レコードでは、彼女の役をビヨンセが演じていますね。

この人は黒人女性歌手の中でもこってりした味わいが濃厚で、まあはっきり言ってド演歌の世界なので苦手な人もいるだろうが、私は大好きだ。個人的に良く聞くのは1986年3月30日から31日にかけてロサンジェルスのクラブでライヴ録音されたこの2枚で、一枚目にはBlues In The Nightというタイトルが付いているのだが、二枚目はただThe Late Showと書いてあるだけ。残りテープのお蔵だしという扱いなのかもしれない。

ジェイムズは強烈な個性のある人なので、周りもそれなりに華のある人でないとバランスが取れないのだが、ここでは相方がエディ・クリーンヘッド・ヴィンスンで、バック・バンドもレッド・ハロウェイのサックス、ジャック・マクダフのオルガン、シュギー・オーティスのギター、リチャード・リードのベース、ポール・ハンフリーのドラムスとまさにこの手の音楽のオールスターと言って良い陣容なので、ジェイムズに全く位負けしていない。そういえば、別に意図したわけではないんだが最近この日記で名前が出てきた人が多いですね。

2枚とも甲乙付けがたい出来ではあるのだが、まあライヴ・セッションの通例で大体こういうのは後ろのほうが盛り上がってくるわけで、個人的にはレイト・ショウのほうをよく聞いている。大物ヴィンスンが最初に4曲前座で(!)歌うのだが、オハコのCleanhead Bluesなどを余裕綽々で楽しげに演じている。アルトサックスも吹くが、2曲目などではホロウェイとの掛け合いもありなかなかだ。で、満を持してジェイムズが出てくるのだが、これまた圧倒的な存在感で観客をあっという間に自家薬籠中のものとしてしまい、ヴィンスンと一緒に当たり曲を堂々と歌い上げている。サイドメンにも皆見せ所があるのだが、中でもシュギー・オーティスのギターが大活躍で、こういうセッティングではギターかくあるべしという演奏に終始していて実に素晴らしい。生で見たかったなあ。


2012-01-25 [長年日記]

_ [Jazz] Chelsea Bridge / Al Haig

チェルシー・ブリッジ(紙)(アル・ヘイグ/ジャミール・ナッサー/ビリー・ヒギンズ)

アル・ヘイグといえばインビテーションと相場は決まっているが、他にも優れたアルバムはいくつもある。これは「インビテーション」の翌年に録音されたトリオもので、たぶんヘイグの作品の中では現在CDでは最も手に入りにくいものではないかと思う。ベースがジャミル・ナッサー、ドラムスはビリー・ヒギンズというなかなかの陣容だが、正直ヘイグはインタープレイが聞き所というタイプの演奏家ではないので、サイドメンは下手でなければ誰でも良いというところはある。もちろんヘイグのピアノは相変わらず快調だ。

ところで、ディスクユニオンの山本隆氏がこのアルバムの「マオコ」が素晴らしいと激賞しているのだが、実のところこれはウェイン・ショーターのMiyakoというジャズ・ワルツである。なぜミヤコがマオコになったのかは謎だが(たぶんヘイグ自身ちゃんと曲名を覚えていなかったのだろう)、ライナーノーツを書いた佐藤秀樹氏も気づいていないようなのが不思議。ショーター自身の演奏は1967年の名作Schizophreniaに収録されている。ヘイグはショーターの曲ではFootprintsもよく弾いていたが、ショーター作品特有のミステリアスでどこか得体の知れないところがヘイグの個性と相性抜群だった。ヘイグ・プレイズ・ショーターみたいな企画があれば、ものすごい傑作が生まれたかもしれない。