My Human Gets Me Blues

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2012-01-05 [長年日記]

_ [Jazz] Sax Appeal / Various Artists

Sax Appeal(Various Artists)

出来合いのピンナップを適当に貼り付けただけにしか見えない手抜き感満載の悪趣味ジャケットに、サックスというものを知っている人であればおそらく誰でも思いつくであろうダジャレがタイトルという、およそ購買意欲をそそられないような代物だが、実のところ中身は、50年代にシカゴの名門Vee-Jayレーベルで録音されたジャズっぽいR&B(いわゆるホンカーもの)を集大成した結構貴重なコンピレーションなのだった。私はずいぶん長いことこれを探していたのだが、ついにCDの形では手に入らず、Amazon MP3で買いました。コンピ盤は一度市場から消えると探すのがとても難しいのですね。Amazon MP3さまさまである。

最初に出てくるのはテナーサックス奏者、ジュリアン・ダッシュの演奏だ。アースキン・ホーキンズ楽団で活躍し、名曲「Tuxedo Junction」を共作した人だが、この人はステージで走るのでダッシュというあだ名が付いたとかいうある種の偉人で、大変に勢いがある。というか勢いしかない。このアルバムには1954年録音の「Zig Zag」など5曲が収められている。まあ大体がこんな感じの音楽です。

ちなみにピアノを弾いているのはオルガニストとして高名なハンク・マー、ドラムスはケニー・バレルの名作Midnight Blueでドラムを叩いていたビル・イングリッシュである。

次に出てくるのは、後年ヴォン・フリーマンなどとも共演していたベーシスト、デイヴ・シップのコンボの演奏で、そもそも私はこの音源が聞きたくて探していたのだった。というのも、ここでピアノを弾いているのが、実はこれがデビュー録音となる若き日のアンドリュー・ヒルなのである。R&Bと言うにはやや場違いと言わざるを得ないバップ魂溢れる演奏がまじめに展開されるのだが、アルトサックスを吹いているのは夭折した知られざる名手、ポーター・キルバート。

次に登場はベテラン・ピアニストのトミー・ディーンのグループで、メンツでいうと若き日のオリバー・ネルソンがアルトで参加しているのが目を惹く。といっても別に目立つ活躍をしているわけではないのでパス。この後なぜかビバップ・テナーの名人であるウォーデル・グレイの演奏が収録されているのだが、これは彼が亡くなる数ヶ月前に録音されたラスト・レコーディングのようだ。Oscar's Bluesというのはオスカー・ペティフォードのBlues In The Closetですね。

で、さらにホンカーの王様ビッグ・ジェイ・マクニーリーのBig Jay's Hopというのが続くのだが、曲名から容易に察しが付くようにビッグ・ジェイの大ヒット曲であるDeacon's Hopの焼き直しで、正直そんなに大したものではない。かつて来日したこともあるビッグ・ジェイの途方も無さに関しては、田中啓文氏のジャズに棲む怪物たちが必見である。もう演奏はしていないと思うが、ビッグ・ジェイはまだご健在のようでなによりだ…とここまで書いてちょっと探してみたら、2010年のライヴの動画があって腰が抜けた。83歳でこれですか。いったいどういうことなんですかね。

次に出てくるアル・スミスというのは、一応ベーシストなんだが楽器は全然弾けなかったそうで、でもバンドのマネージメントには非常に長けていたため彼名義の録音が当時のVee-Jayには多く残されている。音楽的にはテナーの名手レッド・ホロウェイがリーダーのバンドと言えよう。

さらにテキサスの怪物テナー、アーネット・コブの演奏が2曲、ポール・ウィリアムス楽団などで活躍した典型的なホンカーのノーブル・ワッツの演奏が3曲と

まことにお腹いっぱいの陣容で、大変満足いたしました。少なくとも私は。