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2012-10-16 [長年日記]

_ [Jazz] Blues Up (Piano Solo) / Dave McKenna

PIANO SOLO(DAVE MCKENNA)

最近寒くなってきたので、地味なソロ・ピアノを好んで聞いている。ソロ・ピアノ特有のしみじみとした味わいがいかにも秋向きである。ジャズにおけるソロ・ピアノは、共演者とのインタープレイというか共創性のようなものが重視されるこの世界では、なんというか労多くして益少ない分野のような気がするのだが(偏見)、ピアニストによってはソロのほうが安心して聞けるという不思議な人もいて、その一人がデイヴ・マッケンナ(本当はマッキーナと読むらしい)である。

ビバップ以前に活躍したオールド・スクールのピアニストたちは皆強靱な左手を持っていて、ベースを含めたリズム・セクションの仕事を一人で全てこなしてしまっていた。アート・テイタム、テディ・ウィルソン、ナット・キング・コール、みんなすごかったですね。しかし、バド・パウエル以降左手の役割が相対的に低下し、しかもピアノ、ベース、ドラムスの分業という近代ピアノ・トリオの定型ができてしまうと、こうしたスタイルではバンド編成で微妙に「弾きすぎ」になってしまう弊害も生じてしまった。ようするに、左手の動きがベース・ラインやドラムスによるリズム・キープとぶつかって、うるさく聞こえてしまうのである。

マッケンナは1930年生まれなので、世代的にはビバッパーにしてもかなり若い部類に入るのだが、スタイルは完全に古き良きスウィングのそれで、この世代としては例外的にかなり強力な左手を持っている。若いだけにモダンなセッティングでもそれほど違和感なく溶け込めるのだが(ズート・シムズのDown Homeとかが好例)、個人的にはソロ・ピアノのほうが落ち着いて聞けるような気がする。これは1955年に録音されたデビュー作で、なんとプロデュースは若き日のクリード・テイラー。初録音からいきなりソロ・ピアノで通すというのは冒険だったはずだが、変化球とはいえマッケンナの資質には合った選択で、さすがテイラーというべき慧眼だと思う(売れたかどうかは知らないけど…)。深みやら凄みやらとは無縁なものの、あくまで平明ながら細かいところまで神経の行き届いた弾きっぷりはとても魅力的だ。

このCDにはおまけとして、1963年のReam盤「Lullabies In Jazz」も併録されているのだが、こちらも全編ソロ・ピアノだし、オリジナルは入手困難と思われるので、かなりお得な気分である。もちろんこちらでも、両手をフルに活かしたマッケンナの至芸が楽しめる。