2008-02-03 [長年日記]
_ [Life] 豪雪
ものすごく積もっております。というか、午後になってもまだ降り続いております。東京でここまで積もったのは数年ぶりかなあ。本当は出かけなければならなかったのだが、これはキャンセルですわ。
_ [Shogi] NHK杯テレビ将棋トーナメント 準々決勝第1局
棋神・羽生善治大先生 vs. 棋士になって苦節20余年で本戦初出場、まあ言い方は悪いけどせいぜい中の下くらいなランクの長沼洋七段、という派手なんだか地味なんだかよく分からない準々決勝だったので思わず見てしまった。
いやー、長沼勝ったねえ。しかも反則とかではなく、例によって持ち駒貯めまくっての堂々の受け切り勝ち。どうなっとるんだ。長沼は対局時の様子が挙動不審すぎるのでこれから妙な人気が出たりして。ゴーゴー長沼。さすがに次で爆死すると思うが。
_ [Reading] 将棋本オールタイムベストテン
doublecrownさんという方が将棋本オールタイムベストテンを募っている。現実逃避を兼ねて、私も10冊選んでみた。
棋書は大別すると、棋力向上のための本(定跡書や詰将棋、必死問題集など)と読みもの(観戦記や評伝など)に分けられると思うのだが、私のようなペーパードライバーならぬペーパー将棋指しの関心は主に後者にある。そこでここでは、仮に定跡書だとしても、まずは読みものとしておもしろく、特に再読再々読に耐えるものを中心に選んだ。結局ありがちなセレクションになってしまったが…。
- 第1位: やりなおしの将棋 (岩波アクティブ新書)(先崎 学)
- 実は珍しいおとな向けの将棋入門書。大変読みやすく分かりやすい。新書程度の分量だが、ちゃんと読めばそれなりに将棋が指せるところまで連れていってくれるはずだ。将棋連盟はこれを英訳や中国語訳して(あと英字の将棋駒を作って)無料で配るとよいと思う。どうせ1000万もかかるまい? 普及云々というならもう少しこの手の仕事に注目すべきだと思うので1位にした。
- 第2位: 最強の駒落ち (講談社現代新書)(先崎 学)
- 駒落ち(ハンデ戦)指南。なんだかんだ言って先崎は入門書を書くのがうまい。やはり頭が良いのだと思う。最近では初心者でも駒落ちをあまり指さないのだろうが、平手の中盤って実は駒落ちと感覚が似ていたりするので、ソフトウェア相手に指すなら平手で思考ルーチンを最弱レベルにするよりは、駒落ちで最強レベルにセットしたほうが後々ためになるのではないか。どうしても平手でBonanzaに勝てないあなた(というか私)のために。ちなみにBonanzaはWINE上でばっちり動くのよ。
- 第3位: 最新戦法の話 (最強将棋21)(勝又 清和)
- 最近のプロ将棋をたのしく観戦するためのガイドブック。この本については以前書評を書いた。定跡書としても読みものとしても優れているという、欲張りな一冊。ちらっと棋譜を眺めるだけで「ああこれはゴキゲン中飛車の出だしだね」とか知ったかぶりができるようになる。ほんの思いつきが次第に洗練されていく過程を追ったドキュメンタリーとしても興味深い。別に棋書に限らず、最近読んだ本の中ではピカイチかも。
- 第4位: 超急戦!!殺しのテクニック (塚田泰明の速攻将棋)(横田 稔)
- 相手のちょっとした隙を突く、奇襲戦法のショーケース。私のように、居飛車穴熊に組まれただけでうんざりして投げたくなる人間には、こういう超急戦奇襲ものが読んでいてたのしい。実戦で使えるかどうかは話が別だが…。古い本なので、すでに乗り越えられた定跡も多いのだろうが(塚田スペシャルとか)、手筋としては今でも参考になる点が多いと思う。あと、縁台将棋レベルではどうせみんな対策を忘れている/そもそも知らないので、今やれば連戦連勝かも。各章のタイトルの付け方も気が利いている。この本も含め、高橋書店の「塚田泰明の速攻将棋」シリーズはどれもよかった(寄せの手筋168とかね)。著者・横田稔の急逝が惜しまれる。
- 第5位: 大山康晴の晩節 (新潮文庫)(河口 俊彦)
- 伝説的巨人、大山康晴の評伝。この本についても昔書評を書いた。近年の河口は、やはり現役を退いて長くなったせいか、妙に愚痴っぽくなってしまったが、このあたりだとまだそれほど気にならない。なにより読みものとしておもしろい。
- 第6位: 升田将棋の世界(真部 一男)
- 大山と双璧を成す天才、升田幸三の棋譜解説。この本についても以前書評を書いた。今は亡き真部節がそこかしこに出ているのもうれしい。どうせなら升田関係以外の「将棋論考」も一冊にまとめてほしいんだがなあ。
- 第7位: 升田式石田流の時代―最強将棋塾DX (東公平コレクション)(東 公平)
- 東公平による観戦記の決定版。姉妹編の名人は幻を見たも大山-中原戦を中心にドラマチックな将棋が多いが、個人的には妖刀使い・花村や伝説の理論家・山田といった、すでに物故したキャラの濃い人たちの将棋が載るこちらのほうが、若干おもしろさで勝るような気がする。
- 第8位: 真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)(団 鬼六)
- 将棋以外まるでダメだったが将棋だけはとてつもなく強かった伝説的賭け将棋指しの伝記。これも読みものとして圧倒的におもしろい。おそらくは団鬼六の最高傑作でもある。カイジとかああいうのが好きな人はぜひ。
- 第9位: 屋敷伸之の将棋 茫洋(屋敷 伸之)
- これは個人的趣味。元棋聖・屋敷伸之の自戦記集。昔よく将棋を指していたころ、プロでは屋敷の将棋が一番好きだった。最近はどうだか知らないけれど、当時の屋敷は何せ強かったし、指し手の端々に、なんというか生理的な気持ち良さがあったように思う。細かい指し回しの切れ味でクイっと優勢を築き、予想外の方向から手裏剣を飛ばして相手を仕留めるあたり、囲碁の坂田栄男なんかにも通じる味だったですね。「忍者屋敷」「お化け屋敷」の名は伊達ではない。これはその屋敷に自戦記を書かせるというアイデアの勝利。
- 第10位: 蘇る秘伝大道棋(湯川 博士/週刊将棋)
- これも個人的趣味だな。かつて全盛を極めた「大道詰将棋」の紹介。昔は、縁日の出店などで詰将棋を出して、客が解ければ金を払い、解けなければ金を巻き上げるという商売があったらしい。なにせ金がかかっているので、一見ものすごく簡単そうで(さもなくばそもそも手を出してくれない)、実は随所に巧妙な引っ掛けが凝らされた問題が数多く作られたそうだ、棋力向上に役立つかは知らないが、私のようなトーシロがパズルとして楽しむぶんには、こういうもののほうが良いと思う。間違えても金をふんだくられる心配はないし。ちなみに、私などは我ながらおもしろいくらい落とし穴にハマるので、これを読むと自分がおそろしくバカになったような気がする。なお、私が読んだことがあるのは旧版。
- おまけ(これは採点に入れなくていいです)
- ジャック・ピノーのダイナミックチェス入門 (MAN TO MAN BOOKS)(ジャック ピノー/Jacques Marie Pineau)
- 延々と将棋の話を書いておいてなんだが、最近だと個人的にはチェスを指すことが多い(相変わらずCraftyはおろかGNU Chessにも勝てないけれど)。でも私の周りにはチェスを指す日本人がいなくてさみしい。というわけで、将棋に飽きたらこれを読んでチェスを覚えてくれるといいですね。というか、これも絶版なのかいな(山海堂が潰れたから?)。ものすごく良い本なのに。
2008-02-04 [長年日記]
_ [Music] Two by Two / Steve Kuhn
フランスの老舗ジャズレーベルOwlが出した諸作は、一部を除いて長らく廃盤が続いていたのだが、去年まとめて再発CD化された。これもそのうちの一枚。
私が初めてキューンに接したのはECMに残した1作目Trance(Steve Kuhn)で、耽美的というのか、幻想的というのか、あくまでリリカルでありながらそれでいてダイナミックなノリも失わない素晴らしい演奏に一発で参ってしまった。
ECM時代の印象が強すぎて、最近の保守回帰というかバップ色を強めたキューンの演奏にはどうも違和感を禁じ得なかったのだが、この作品では長い付き合いのベーシスト、スティーヴ・スワローとのデュオという理想的なセッティングで、二人が持ち寄った曲をじっくりと料理している(最後の1曲だけミシェル・コロンビエー作)。私はスワローの作る曲が好きで、EiderdownとかLadies in Mercedesあたりはメロディーを聞いただけでゾクゾクしてしまう。下手をすると嫌な音になりがちなスワローのエレベの音がすっきりと録れていて、かつてに比べ温かみを増したキューンのタッチと非常に良く調和しているのも素晴らしい。
_ [PodCast] mhattaのPodCast更新
2月3日分を更新しました。驚いたことにこのところは毎週更新しているらしい。
2008-02-06 [長年日記]
_ [Music] Catch of the Day / Matt Penman
マット・ペンマンは、ここ数年様々なバンドで見かけるようになったニュージーランド出身のベーシストだ。この最新リーダー作ではシーマス・ブレイクをフロントに据え、最近出てきた中では個人的に最も注目すべきピアニストだと思っているアーロン・パークスを擁したカルテットを率いている。ドラムスを叩いているのはこちらも売れっ子のエリック・ハーランドで、ペンマンは3年前、シーマスの代わりにカート・ローゼンウィンケルを入れたハーランド名義のカルテットで来日したこともある。おそらく、普段からニューヨークあたりで一緒に良く演っているメンツなのでしょう。
最近の若手の常で全員楽器がやたらうまいのは言うまでもないが、それに加えてペンマンはなかなか良い曲を書く。構成的にはやたら複雑で手が込んではいるが、どの曲にもメロディアスで大らかな温かみのある楽想が与えられているので、過度に機械的な感じが鼻につくということはない。個々の曲もそれぞれに良いのだが、全8曲通して聞くとそれなりに起伏と流れがあり、また1曲1曲は長すぎず短すぎず、相当アルバムとしての構成を練ったふしがある。全体としては切れ味の良い短編集という印象。個人的には最後の8曲目がスパッと格好良くて気に入った。
「今日の収穫」ということで、魚にベーシストのほうが釣られている(?)というベタなユーモアを湛えたジャケもなかなか。
2008-02-07 [長年日記]
_ [Music] Cathexis & Carnival / Denny Zeitlin
Collectablesレーベルお得意の強引な2 in 1 CDなのだが、これはかなりひどい。Cathexis相当部分はともかく、Carnivalのほうは4曲も削られている。全9曲のうち4曲って、ほとんど半分しか入ってないわけで、これはリイシューと言わんだろう…。まあ、私の目当てはCathexisのほうだから別にいいのだが。
ビル・エヴァンスの後を追う白人ジャズピアニストとして将来を嘱望され(エヴァンスはザイトリンの書いた曲を愛奏した)、実際に相当な実績を残しながらも、70年代は精神科医という本業(ジョンズ・ホプキンズ大で医学博士号取得)と作曲に専念すべく一時引退。90年代に入って再びピアニストとして活発な活動を再開し、現在に至る。デニー・ザイトリンのキャリアを簡単に振り返ればこういうことになる。何事も専門でないと、どことなく趣味、余技という感じが漂うものだが、この人に限っては全くそのようなことがない。ピアノのテクニックにしても、即興の冴えにしても、一流どころに全く遜色ない実力を備えていると思う。Cathexisは彼の初リーダー作だが、自作曲のつくり、スタンダード曲(モンクの'Round Midnightとか)の解釈、どちらも超ハイレベルでケチのつけようがない。あまりにケチのつけようがないのでなんだか腹が立ってくるくらいだ(笑)。天は二物を与えるということが、たまにはあるのですねえ。なお、ザイトリンというと判で押したようにライヴ・アット・ザ・トライデント(期間限定盤)(デニー・ザイトリン/チャーリー・ヘイデン/ジェリー・グラネリ)が言及されることが多いように思うが、あれはなんだか全体に暗い感じで、個人的にはあまり好きではない。ザイトリンの美点である、明快で切れ味のよいピアノを味わうならこちらだと思う。
_ [OTP] チャレンジャーとしてのMicrosoft、チャンピオンとしてのGoogle
ひさびさにOTPに記事を書いた。MSによるYahoo!買収の話。
_ 削除Katerrie Blackadar [削除http://viagra.4dcollege.edu/where-can-i-buy-cialis-onlin..]
2008-02-09 [長年日記]
_ [Music] サラ・ヴォーンのブラジルもの
k3c氏とTwitterでそういう話になったので取り上げる気になった。このクソ寒いのに熱帯音楽というのも妙な感じですが。
サラ・ヴォーンにブラジル音楽を歌わせる、というアイデアを最初に思いついたのが誰かは知らないが、実にうまい企画だと思う。言うまでもなく、サラはとても歌が巧い。ただ、声質やうたい回しがカーメン・マクレエあたりに比べても重厚でコッテリしているので、暗いバラードでも歌われた日には重くなりすぎて気が滅入る。そこで、バックに軽快な、というか、時として軽くなりすぎる傾向すらあるブラジル音楽を持ってくるというのは理にかなっているわけだ。
サラはパブロに「ブラジルもの」を2枚残しているが、両方とも良い出来で普段から良く聞いている。どちらも単にジャズ屋がレパートリーの一つとしてボサノバっぽく演奏してみましたという程度ではなく、わざわざリオまで出向いて現地のミュージシャンにプロデュースもアレンジも演奏も委ねたもので、サラの歌にもいつも以上に気合が乗っているようだ。どちらかと言えば個人的には2作目のCopacabanaのほうを聞く頻度が高いが(地味だから)、選曲の良さ、アレンジの華やかさという意味ではI Love Brazil!も捨てがたい。特にこちらに収められたVera Cruzの迫力はものすごいものがある。ナシメント本人がギターを弾いて歌っているし。他にもジョビン曲ではジョビン本人がピアノを弾いていたり、ドリイ・カイミの曲ではやはり本人が歌っていたり、なんというか贅沢な作りです。
_ TrackBack [http://d.hatena.ne.jp/k3c/20080214/p2 18 til i die [music]..]
2008-02-12 [長年日記]
_ [Music] At Monterey 1958 / Billie Holiday
もう久しく更新していないが、かつて私は自分が持っているCDのリストを作ってネットで公開していたことがある。それを見て、日本に限らず世界各地のコレクターが、あれをくれだのこれの情報を教えろだのとしょっちゅうメールで問い合わせてきたものだ(私は基本的にトレードはしませんが)。このアルバムは1958年10月5日、モンタレー・ジャズ・フェスでのライヴ音源だが、ここ十数年ほど非常に手に入りにくかったので、今まで何度もそういったメールをもらったことがある。それだけ熱心に探していた人が多いのだろう。今年に入ってようやく再発されたようだ。
ビリー・ホリデイはこの翌年、1959年7月に精魂尽き果てたという感じで亡くなってしまうので、これは最晩年の録音の一つということになる。声の荒れで悪名高いレディ・イン・サテン+4(ビリー・ホリデイ)(1958年2月録音)よりもさらに後の録音だけに、さぞとんでもない出来だろうと思いきや、観客のリクエストにも気軽に応じてチャーミングに歌うホリデイがここにはいる。確かに声そのもののツヤはかつてとは比べるべくもないが、マル・ウォルドロンを中心としたトリオを従え、大物ゲストを迎えて気分良く定番曲を歌いまくるホリデイに死の影のようなものは全く感じられない。モンタレーの会場は近所に空港があるそうで、途中で派手な飛行機の爆音が入っていたりもするのだが(ただし隠し撮り等ではないので音質そのものは特に問題無い)、ここは録音から20年以上も行方不明だったというマスターテープの発見を素直に喜ばなければなるまい。というのも、この直後に赴いた最後のヨーロッパ・ツアーは観客からの野次でステージを放棄せざるを得なくなるほどの惨めな有様だったそうなので、おそらくこれが伝説的な歌姫の最後の輝きだったはずだからである。
事実上の音楽監督を務めていたのだろうウォルドロンが随所で見せる頑張りもなかなかだが(Lover Come Back To Meのアレンジとピアノのカッコよさ!)、ゲスト陣では、ジェリー・マリガンの繊細な歌伴(特にI Only Have Eyes For Youでの素晴らしいオブリガート)が印象に残る。悪いこた言わないので買える間に買っとけ。
Before...
_ mhatta [善処いたしますです。]
_ 0020 [>ジングル 出だしの一瞬の音だけが馬鹿でかいので、多分0sec〜1secにかけて音量を50%減→制限解除とフェードイ..]
_ mrmt [あと、収録終了後に余韻とかミュートを2〜3秒いれたほうがいいかも。 いまだと、あっ終わった、と同時にリピート再生で..]