2007-09-12 [長年日記]
_ [Music] R.I.P. Joe Zawinul
ジョー・ザヴィヌル先生が亡くなったそうだ(産経新聞の記事)。享年75歳というのはまあ、世間的には大往生の部類なのだろうが、怪物なのでこんなにあっさり死ぬとは夢にも思わなかった。
何が怪物かって、このおじいさんの音楽は年を取ればとるほど良くなっていったのである。ジャズにおいては(私はこの人のやっていたことこそがジャズだと思っているのだが)、これはかなり珍しいことだ。それも、いぶし銀が枯淡の境地に達して云々というようなありがちなパターンではない。より貪欲に、より脂ぎって、未知の要素、何か新しいものを自身の中に消化吸収していった。シンセが肉体と完全に一体化していた。そして、何よりライブが凄まじかった。60、70を越えて、去年より今年のほうがすげえんじゃねえかと期待させてくれるミュージシャンはそうはいない。とは言っても、私が生で見られたのは4年前の1回だけなのだけれど(私にしては珍しく興奮冷めやらぬその時のレポート)、CDや人の噂で聞く限り最近でも絶好調だったようである。
もちろん60年代のマイルズとのコラボレーションや7-80年代のウェザーリポート/ザヴィヌル・シンジケートの重要性を否定するわけではないが、このところの活動のほうが、かっちりと作り込みつつも、バンドのメンバの自発性に任せるべきところは十分任せていてのびのびとした開放感があり、私の生理にはしっくりくるものだった。もちろん昔のライヴを見たわけではないので、単純には比較できないのですけれどね。
近年の、特に私が聞いたころのライヴの、自由と統制の絶妙なバランス、ポップさと迫力の共存を再現してくれるCDは、やはりこの2枚組のWorld Tourではないかと思う。私の記憶が確かならば、日本ではこれはなぜか最初1枚ものとして編集された(というより曲を削りまくった)形で出た。てっきり元々1枚ものなのかと思って買ったら実は輸入盤だと2枚組だと言うことを後で知って、かなり本気でキレたような覚えがある。2枚組じゃ売れないと判断したのだろうが、悲しい話だ。リチャード・ボナやパコ・セリーが入っているので、メンバ的にも充実の極み。大音量で聞くとスカっとします。
2007-09-25 [長年日記]
_ [Sun Ra] The Ark and the Ankh / Sun Ra and Henry Dumas
サン・ラーの作品はただでさえ玉石混交だが、中にはそもそも音楽として評価しようがないものが市場に出回っていたりもする。これなんかがその好例で、CDで出ているものの、これはそもそもアーケストラの演奏ではない。これは1966年、当時毎月曜にアーケストラが出演していたクラブ「スラッグス・サルーン」で、詩人・小説家のヘンリー・デュマスがサン・ラーにインタビューしたときの録音テープである。カタギの人がこれを買う必要はありません。
この時期デュマスはサン・ラーと非常に親しく、音楽活動にこそ参加していなかったもの、サン・ラーの事実上の「弟子」として付き合っていたようだ。この交友は短期間で終わった。1968年、デュマスが警官の「誤射」で殺害されてしまったからだ。
同じ黒人の詩人でも、リロイ・ジョーンズ(アミリ・バラカ)は日本でも若干の知名度があるのに対し、デュマスはほとんど知られていないように思われる。私も名前は知っていたが、作品を読んだことはなかった。短篇小説に関しては今ではEcho Tree: The Collected Short Fiction of Henry Dumas (Black Arts Movement Series)(Henry Dumas/Eugene Redmond)としてまとまった形で手に入るが、詩集は難しいようだ。
そこでこのあたりにあるデュマスの詩をいくつか読んでみたのだが、なんとも名状しがたい気分に襲われたので、試しにサン・ラー伝(ジョン・F・スウェッド/湯浅 恵子)に最後のヴァースだけ引用されていたOuter Space Bluesを訳してみた。黒人文化と宇宙との関わりというのは優に一編の論文に値するテーマだと思うが(野田努がどこかで書いていたような気もする)、それはそれとして最後の一文につながる展開にしびれる。私が言うのもなんだが、才能のある人だったと思う。しかし、原文の雰囲気を生かして詩を訳すのはとても難しい。
宇宙空間のブルーズ
ヘンリー・デュマス (1934-1968)
ねえみんな、こないだニュースを聞いたんだ
死ぬほど怖いニュースだったよ
世の中何が起こるかわからないもんだね
死ぬほど怖いニュースだったよ
テレビが言うには宇宙船がここに来るんだって
来たら人間は皆いなくなっちまうだろうね
でも言っておくけれど、宇宙船はそんなに悪いもののはずがないよ
みんなをからかうつもりはないけれど
宇宙船はそんなに悪いもののはずがないんだ
ぼくは生まれてこのかた地球にいて
生まれてこのかたずっと怒り狂ってたのだし
だから宇宙船が着陸しても
あんまり速く逃げないつもりだよ
だからね、あんまり速く逃げないつもりなんだ
ミシシッピまでたどり着いても
ぼくには渡れないって知ってるだろ
ちょっと待ってみんな、空飛ぶ円盤がやって来るよ
様子を見ようかな
ああそうとも、宇宙船がやって来るんだ
様子を見ようかな
ぼくに分かってることはね、きっと彼らはぼくにそっくりだってこと
2007-09-29 [長年日記]
_ [Music] New Year's Eve in N.Y. 1973 / Rahsaan Roland Kirk
私はできるだけ渋谷に行かないようにしているのだが、それは人ごみが嫌いだからでもヤマンバーが怖いからでもなくて、行くとどうしてもしかるべき店に立ち寄ってしまい、そうするとどうしたわけかしかるべきものを大量に買い込んでしまうということになり、結果として財政的に大ダメージを被るのが目に見えているからである。そういえば知り合いで西新宿にはどうしても行くことができない、という人もいたが、閑話休題。
まあそんなわけで、先日よんどころない事情で渋谷に行きまして、待ち合わせの都合上結構時間が空きまして、そういうときは東急ハンズにでも入って木工用ボンドでも買ってりゃよかったのだが、残念ながらわたくし八斎戒が守れるほど強い人間では無く、気がついたらいつの間にかプレスCDとCD-R若干枚が手中にあったというわけだ(万引きしたわけではない)。これは1973年の大晦日、「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライヴ。何せ年越しのお祭りなので、カーク以下観客も含めて皆くつろいで楽しんでいるようである。
サウンドボード録音なので、音質的には若干痩せている部分もあるが、いやーもう2曲めが最高なんだよ。全然違うタイトルがついてるけど実質的にはチェロキー(Aメロのコード進行にちょっと手が入ってる)なんですがね。なんと言うかもう地獄のようにグルーヴするのでまいった。雨が降ると憂鬱な気分になるのだが、いっぺんで吹き飛んでしまいましたよ。カークはいつも通り秘技を駆使していてやばいが、ここでは特にバリトンのケニー・ロジャーズとか言う人がブリブリ太い音色で吹きまくっているので最高だ。マイキングのせいもあって場面によってはカークを食うくらいの迫力がある。これが20分続いてもうほとんど拷問ですわ。
カークは(脳卒中で半身不随になった後の演奏ですらも)私の精神をほぼ百発百中で開放してくれるので、そういう意味では何を買っても安心確実高利回りな銘柄なのだが、これは既発の音源と比べてもかなりいい。公式盤としてジョエル・ドーンのレーベルあたりで出してくれるといいんだがなあ。
ちなみに今までカークを聞いたことがない方、下の動画なんかはカークのカークたる所以をよく表していると思う。いきなりブートはちょっと…と言う方はVolunteered Slavery(Rahsaan Roland Kirk)が絶対のおすすめですね。同時期のライヴ盤ということならBright Moments(Rahsaan Roland Kirk)も良い。どういう人物だったのか事績を知りたいなら当然ローランド・カーク伝(ジョン・クルース/林建紀訳)。
_ how [Zawinulラスト映像 JOE ZAWINUL/Estival JAZZ,Lugano,Switzland'20..]