2007-04-03 [長年日記]
_ [Music] Steppin' Up / Hank Crawford & Jimmy McGriff
雨降ってるし、寒いし、やることは終わらないし、とリアルでブルーな早朝なんですけれども、そういうときこそソウルフルなジャズで体を温めるのが良いわけです。この時間帯は体温低いしよ。
アルト・サックスの名人ハンク・クロフォードは80年代のマイルストーン・レーベルに結構な量の録音を残しているが、図抜けて優れたこの一枚、というものはない代わり(だからあまり話題にならない)、どれをとってもあまり大外れしない。プロデュースもこの手の音楽に造詣の深いボブ・ポーターなので、単なるセッション一発録りという風情のアルバムでも何かしらひとひねり効いている。
これなんかはオルガンのジミー・マグリフと組んだものだが、サイドメンの質(ギターの隠れ名人ジミー・ポンダー入り)、選曲のバラエティ、そして豪華ゲスト約1名とあくまでツボを外さない作りで、変わり映えこそしませんがお代の分だけはちゃんと楽しんで頂きますという姿勢がかいま見えて頼もしい限りだ。
で、豪華ゲストとは誰かということになるのだが、まだ大した年でもないのに去年死んでしまったビリー・プレストンなのですね。4曲に参加してピアノを弾いている(オルガンや歌はなし)。この人はどんなセッティングでも違和感なくはまってしまう適応力の高さに加え、派手なことをやってもどこか上品な雰囲気を残していてそこが好きなのだが、このセッションでもそうした彼の美質が遺憾なく発揮されている。ピアノとオルガンのような複音が出せる楽器が共演すると音が重なっていろいろ厄介な問題が発生するのだが、音色とタッチの違いを際立たせることでうまく回避しているのもさすが。たぶんこれはプレストンのセンスの良さのおかげなのだろう。さすが5人目のビートルズ。
2007-04-06 [長年日記]
_ [Food] Chinese Dining Ron Fan@大泉学園
狭いがこぎれいな中華料理屋。確か去年の開店で、以来何度かランチに行っている。mrmt先生も行ったらしい。
ローカルな話で恐縮だが、大泉学園にはゆめりあホールという箱もの行政の極致みたいなものがあって、そこの地下は一応飲食街になっている。入口は目立たず暗く、飲み屋が多く、とりわけ昼は驚くべき寂れっぷりで、およそ飲食店には向いていない立地だと思うのだが、最近では口コミで評判が出たのか昼などはネリマーゼでそこそこの混みようだ。ちなみにネリマーゼというのは笑うところです。
ランチしか食べたことがないが、とりあえずエビチリはスパイスが効いていてとてもおいしい。麻婆豆腐は煮えたぎっていてあまり私の好みのタイプではないが、これもこういうのが好きな人にとってはきっとうまいだろう。炒め物系も良い。ランチだとメイン(エビチリ等定番は毎週あるようだがいくつかは週替わり)にサラダ、メンマ(案外うまい)、スープ(これもたまに替わるようだ)、ご飯(おかわり可)がついてかつ食後に日替わり(?)の中国茶が出る。これで1000円以内に収まるのだから安い部類ではないか。なお、100円プラスで杏仁豆腐などのデザートも付けられるようだ。狭いんだけど接客も良いし、家族連れで行くのも良いと思いますよ。私はたいてい一人でカウンタだけど。
チャイニーズ ダイニング Ron Fan
東京都練馬区東大泉1-29-1 ゆめりあホールB1
木曜定休(10名〜の宴会の場合応相談)
ランチ 11:00〜15:00 (L.O. 14:30)
ディナー 17:00〜23:00 (L.O. 22:30)
Tel. 03-3923-2262
2007-04-12 [長年日記]
_ [Music] Portrait Of A Legend / Joe Albany
1946年にレスター・ヤング、47年にはチャーリー・パーカーと、ジャズ史上屈指の大物2人と録音を残し(ただし後者は正式なものではない)、パーカーにはバド・パウエルに次いで高く評価されていた(でも喧嘩になってチャーリー・パーカー・オン・ダイアル完全盤(チャーリー・パーカー)の録音には呼んでもらえなかった)のがこのジョー・オーバニーだ。重度のヤク中兼アル中で刑務所や療養所に出たり入ったりしていたため、1947年から1970年初頭に本格的な復活を遂げるまでキャリアに25年以上ものブランクがある。現在では伝説のピアニストとして(少なくとも一部には)名高い。
個人的にはとても好きな人なのだが、いざ他人に良さを伝えようとするとこれがとても難しい。バップ・ピアニストの一人に分類されることが多いが、左手の動き、アクセントの付け方、ハーモニーやリズム、全てにおいてパウエルやアル・ヘイグとはあまり似ていないし、私が知る限りこういう弾き方をする人は他にいない。うまいか下手かと言えば明らかにうまいタイプの人で、両手をフルに使うオーソドックスなスタイルなのだが(バラードの解釈がとりわけ優れている)、何をどう弾いてもどこかバランスを逸したように聞え、強い緊張と不安感が漂うのが特色だ。こうした不安定さがなぜか魅力と直結しているのがこの人の不思議なところである。
25年以上のブランクと言っても、50年代にはウォーン・マーシュと組んだ2種類の録音(ザ・ライト・コンビネーション(ジョー・オーバニー/ボブ・ウィットロック/ワーン・マーシュ)と、最近発掘されたLive at Dana Point 1957(Warne Marsh Quartet))を残しているのだが、つい最近まで60年代には一つも録音がないとされてきた。オーバニーにとって60年代は相当波瀾万丈の年月だったようで、長じて作家になった娘のエイミー・ジョー・オーバニーが書いた評伝Low Down: Junk, Jazz, and Other Fairy Tales from Childhood (Tin House)(A. J. Albany)を読めばそのあたりも含めてオーバニーの暮らしぶりはもっとよく分かるのだろうが、あいにく未読である。ただまあ、読まなくても大体どんな風だったかは想像がつく。ようするに王道ジャンキーだったんでしょう。
最近になってひょっこり出てきたこのアルバムは、データを信じれば1966年の録音で、上で述べたオーバニーの60年代の空白を埋めるものだ。パーカーの録音でオーバニーを使い損ねたかつてのダイアル・レーベルのオーナー、ロス・ラッセルがプロデュースしたセッションで、ベースにリロイ・ヴィネガー、ドラムスにフランク・キャップと終生リズムセクションに恵まれなかったオーバニーにしては最上のサイドメンがついている。
リハーサルのようなものだったのか、レパートリーが変わり映えしなかったり1曲が短かかったりして若干物足りないところもあるが(ちゃんとした録音なので音質はとても良い)、オーバニーのオーバニーたるゆえんである妙な妖気は濃厚に漂っており、ふらふらよろよろしつつも最後は帳尻が合ってしまう摩訶不思議なフレージングも健在だ。おすすめ。
2007-04-16 [長年日記]
_ [Music] Blue Note Plays Ray Charles / V.A.
ブルーノートへの録音を中心に、レイ・チャールズゆかりの曲を集めたコンピ。御大自身も冒頭の1曲に参加している(1989年、ルー・ロウルズとの共演)。
「ブルーノート・プレイズ・なんちゃら」というシリーズはずいぶん昔から結構な枚数が出ていて、「なんちゃら」の部分には最近だとバカラックとかビートルズとかジョビンとかスティーヴィーとかプリンスとかスティングとか、その辺が入るわけだ。発想としては「JAZZで聞くモーニング娘。」(そんなものがあるのかどうかは知らないけれど)とか、駅の構内で1000円均一で売っている怪しいコンピとか、そういうのとさして変わりないのですが、どうやら選曲はマイケル・カスクーナ本人がやっているようなので、さすがに一ひねり二ひねりしてあって意地悪な聴き込みにも耐える。例えば5曲めの男性歌手ビル・ヘンダースンとジミー・スミスの共演などはシングル盤でしか出たことがないセッションで、CDだとここでしか聞けないようだ。まあ、安易と言えば安易な企画もので、涙が出るほど出来が良いというわけでもないが、ソウルやR&B、オルガン・ジャズが好きな人なら買っても損はしないでしょう。
個人的には、1962年にシングル盤で大ヒットしたというジミー・マグリフの出世作I Got A Womanが聞けたのが良かった。実は機会がなくて、今まで聞いたことがなかったのです。ああこれは売れるだろうな、という感じのノリノリの曲でした。
2007-04-19 [長年日記]
_ [Sun Ra] Love in Outer Space / Myth Science
作曲家、メロディメイカーとしてのサン・ラーに日が当たることはあまり無いが、実のところ彼の書いたメロディの多くは作曲者当人やアーケストラの存在とは独立した世界を形成していて、他者による様々な解釈に耐えるだけの強度を備えている。カバーしやすく、かつカバーされても個性が失われにくいということです。だからもっと他の人がサン・ラーの曲を取り上げても良いと思うのだが、いかんせん知名度がエリントンやモンクやミンガスとは段違いなので、なかなかそうもいかないようだ。
このアルバムは1995年、筋金入りのサン・ラー・ファンであるベーシスト、ルーベン・ラディングが特別に組んだバンドを率いて「ニッティング・ファクトリー」で行ったライヴを録音したもので、サン・ラーの曲ばかりを演奏している。どれもうまく処理されているので、言われなければそもそもサン・ラーの曲だと気づかないだろう。サックス2本にオルガン、ベース、ドラムスというクインテットだが全員べらぼうにうまい。中でもアンソニー・コールマンのぶちきれたオルガンが強烈にかっこいい。1曲めや3曲めでのソロなどはかなりあり得ない。大音量で聞くとスカッとする。どうせオルガン弾くならこういう演奏がしたいものです。
サン・ラーのカバー云々という御託は脇に置いても、ここに込められた熱気は90年代の新録ジャズには例外的ではないかと思う。もう廃盤みたいだけど、おすすめ。
2007-04-23 [長年日記]
_ [Music] Black Fire / Andrew Hill
アンドリュー・ヒルが亡くなった(Blue Note Recordsの発表)。75才と確かに高齢ではあったけれど、ここ数年は優秀な若手・中堅を擁して力作を連発していたし、作曲を含めて創作意欲は全く衰えを見せていなかったから、残念でならない。結局一度も生で見られなかったのが心残りだ。数年前にメールを書いたら返事をくれたのが、今となっては良い思い出である。
ヒルに関しては、昔いーぐるで講演をやったこともあって全録音に一通り耳を通したのだが、とりあえず一枚人に勧めるなら、御多分に漏れずブルーノート時代のどれかかなという気がする。世評が高いのはドルフィー入りのPoint of Departure(Andrew Hill)で、別にあれも悪くはないと思うが、個人的にヒルを初めて聞いたのがこれということもあり、ここではこのBNへのデビュー作を推したい。
ヒルと相性の良いジョーヘンの出来もいいが、何といってもロイ・ヘインズの鋭い切り込みが身震いするほどカッコいい。さすがに最初ということもあってか、曲も割に分かり易いものが多く選ばれているような気がする。最初の一枚にぜひ。
_ [Food] ケンタッキーフライドチキンの謎を深追いする
先日のことだが、久しぶりにケンタッキーフライドチキンが食べたくなった。最近は私もだいぶWikipedia脳が進行していて、なにをするにも事前にググってWikipedia、というありさまだ。当然そのときもWikipediaの該当エントリを調べてみた。するとこんなことが書いてあったのである。
一時、味付けの秘密は、11種類のハーブとスパイスによるものとされていたが、現在用いられている調味料は、塩と黒コショウとグルタミン酸ソーダだけではないかとの指摘が一部でなされている(ウィリアム・パウンドストーン著 BIG SECRETSより)。
な、なんだって-!!!
ケンタッキーと言えばカーネルおじさんが精魂込めた「11種類の秘伝のスパイス」が看板じゃないのか。あの鶏皮の変な味の源であり、その配合は国家機密に匹敵というアレだ。
ウィリアム・パウンドストーンの名には聞き覚えがあった。ビル・ゲイツの面接試験や囚人のジレンマを書いた、著名なポピュラー・サイエンスのライターだ。元はMITで物理をやっていた人で、ジャーナリストの多い日本にはあまりいないタイプの書き手である(森山和道さんくらい?)。
ということで、問題のBIG SECRETSなのだが、実は邦訳が文庫で出ていた(大秘密)。表紙がダサいのでキワモノっぽいが、中身は大変にまっとうで実証的な本である。続編も2冊出ている(大疑惑と大暴露)が、やはりインパクトがあるのは1冊めのこれだ。
細かいことは本を読めば分かるが、結局のところチキンのコロモに塩とこしょうと味の素と小麦粉しか入っていないというのは(少なくともアメリカのチキンに関しては)事実のようである。パウンドストーンはサンダースの製法特許までたどり、相当な量のコロモのサンプルを入手して食品試験所で成分を分析させた。その結果なので説得力がある。とはいえ、ここで話が終わってもああそうですか嘘だったんですねというだけで大しておもしろくもないのだが、むしろケンタッキーの本当の秘密は圧力釜を使った揚げ方のほうにあったというのが個人的には面白い。レシピの秘密が数十年も漏れなかったのは、厳重に機密保持が図られたからではない。そこには秘密は無かったからなのだ。
この本にはチキンの他にもコカ・コーラの成分を分析した話や、ビートルズとかピンクフロイドのLPを逆回転させると秘密のメッセージが聞こえるという噂を受けて本当にやってみた話(実は結構古い本です)、嘘発見器の出し抜き方、冷凍説のあったウォルト・ディズニーの遺体のゆくえを追いかけた話などが載っている。実にくだらないことを大まじめに実証するというスタンスが一貫していて、なかなか面白かった。続編だとややネタが小粒になるが、それでも結構面白い。
2007-04-24 [長年日記]
_ [Gadget] Sony ノイズキャンセリングヘッドホン MDR-NC22
飛行機に乗ると使い捨てのヘッドホンが配られて、音楽番組や放映中の映画の音声が聞けるようになる。ところが、機外騒音のせいで音量を上げてもほとんどまともに聞こえないことがしばしばだ。特に落語や漫才などは最悪で、相当な音量でもかなり聞きづらくなってしまう。
そこで登場するのがノイズキャンセリングヘッドホンだが、今まではBOSEなどから出ている高くてでかい奴(大体が本格的な密閉型ヘッドホン)か、Sonyなどから出ている安くてでかい奴(イヤホンはイヤホンなんだけど電池ボックスがフライングVみたいな形でかさばる)しかなかった。どちらにしても不便なので二の足を踏んでいたのだが、これなどは形状も普通のイヤホンに限りなく近いし、電池ボックスも小さいし(単4一本で数十時間はもつ)、値段も1万円を切っているということでつい手が出てしまったのである。
一応国際線でインドネシアに行ったり、あるいは通学の地下鉄で試したりなどと数ヶ月使い続けているが、値段相応というか、そこそこの効果は見られるようだ。Amazon.co.jpのレビューを見ると、効果があると言う人とないと言う人に二分されているのだが、私の経験では「ちゃんと耳に詰めればそれなりに効果はある」という感じ。実は私も使い始めはあまり効果を実感出来ず、なんだこのカスはと思っていたのだが、それはちゃんと耳に突っ込んでいなかったからだった(イヤーピースは耳穴の大きさに合わせて3つのサイズから選べる)。こういうキャナル型のイヤホンに慣れていなかったもので…。
目立った欠点はほとんど無く無難なつくりだが、個人的にはコードが長くてしかもやたらよく絡まるのと、電源を切り忘れるのが腹が立つ。まあ後者は私が間抜けなだけだが…。
Before...
_ 通りすがり [麻婆豆腐とは、ああいう料理です。そこらのいい加減な中華屋で出てくるのは日本ナイズされたまがい物。]
_ mrmt [でろーんとしたニッポンのマーボードーフもあれはあれでいいですが、 じーんと舌がしびれる、ちゃんと麻なやつを食いたいと..]
_ mhatta [最近ロンファン行ってないので何とも言えないのですが、酸味が強かったような覚えが…。いずれにせよ、私は本場のを食したこ..]