2011-10-04 [長年日記]
_ [Jazz] Ramblin' / Paul Bley
カリカリにセンスが研ぎ澄まされてないと出来ない音楽というのがあるが、ポール・ブレイが60年代中盤に残した一連のピアノ・トリオものはその典型だと思う。好き放題しているのに無駄な音がほとんど無いというのは驚異的だ。ブレイのピアノ、マーク・レヴィンソンのベース、バリー・アルトシュルのドラムスというこのトリオは当代最強の組み合わせだったと思うのだが、その後レヴィンソンは高級オーディオ屋になってしまったし、ブレイ自身も現在まで活動は続けているものの、基本的にはリリシズムとかエロティシズムの人ということになってしまい、このトリオでの演奏で見せたようなシンプルで暴力的な力強さが発揮されることはついぞなかった。
この時期のブレイ・トリオの作品というと、個人的にはFontana原盤の『Blood』という作品が好きでよく聴くのだが、大昔に一度日本盤でCD化されたものの、今となっては入手は難しい。ブレイには他にも「Blood」とジャケットに大書してある作品があってややこしいのだが、こちらのいわゆる『In Harlem』も、ある意味『Blood』のライブ版みたいなところがあって素晴らしいアルバムだ。とはいえ、容易に手に入らないものを取り上げても仕方がないし、同水準の演奏で簡単にAmazonからMP3で買えるものとしては、この『Ramblin'』が良いだろう。
ところで、この時期のブレイ・トリオの演奏に(一時的に)かなり影響を受けたと思しい大物が一人いて、それはチック・コリアである。チックはアンソニー・ブラクストンと組んでCircleというフリー・ジャズ・グループをやっていたが、ブラクストン抜きのピアノ・トリオで残した作品は、アルトシュルをドラムスに迎えていることもあってかなり濃厚にブレイの影響を被っている(と思う)。ただ、音楽から受ける印象が結局とてもヘルシーなのがコリアのコリアたるゆえんなのでしょうね。
2011-10-16 [長年日記]
_ [Jazz] Indian Summer
秋から冬にかけて一時的に気温の高い日が戻ってくるのを日本語では小春日和などと言うが、英語ではそれを「Indian Summer」と言う。今日なんかはまさにそれでしたね。
スタンダード・ナンバーというほど頻繁には演奏されていないような気もするが、Indian Summerというジャズ曲もある。元々1919年にピアノ曲として作曲されたもので、のちに歌詞が付けられた。インディアン・サマーは6月の盛夏、すなわち成就しなかった激しいロマンスがこの世に迷い出た幻、というような歌だったと思うが、この手の寂寥としたラブ・ソングは若い頃のフランク・シナトラの独壇場で、実際この曲を最初に有名にしたのは、シナトラが1940年、当時所属していたトミー・ドーシー・オーケストラで歌ったバージョンだった。
ところで、私が個人的に好きなのは、まずはスタン・ゲッツが吹いたバージョンである。有名なStan Getz Quartetsに収録されているもので、古い録音なので音質は良くないし、わずか3分弱で終わってしまうのだが、テーマの歌い方といいスパっとしたアドリブの切れ味といい最高だ。音の悪さすらも得体の知れない妖気を増す方向に機能している。アル・ヘイグの差し出がましくないピアノもいつもながら良い。
もう一つは、ピアニスト、ジョージ・ウォーリントンのNew York Sceneに収録されているバージョンだ。ウォーリントンと言えばカフェ・ボヘミアでのライヴが超有名で、それで多くの場合話が終わってしまうのだが、引退直前に録音したこの作品もフィル・ウッズやドナルド・バードをフロントに立てたなかなか充実した演奏である。特にこの曲では、バードの余裕綽々としたテーマの吹き回しと、そこに絡みながらソロへと飛び出して行くウッズが発散するのがいかにもハードバップという匂いで、それだけでうれしくなってしまうのだ。全然関係ないが、最後を飾るSol's Ollieという曲も超かっこいい。
最後に、シナトラと並んでこの曲を有名にした一人が1945年に録音したコールマン・ホーキンスなのだが、そのちょうど20年後、亡くなる4年前の1965年に吹き込んだWrapped Tightでもこの曲を再演している。ホークはこのころを境にアル中が悪化し、以降は文字通り気息奄々という感じの悲しい演奏がほとんどになってしまうのだが、このころはまさに人生の小春日和という感じで、威信に満ちた堂々たる吹きっぷりを披露している。大御所最後の傑作と言えるだろう。サイドを固めるバリー・ハリスのピアノがまた渋いのね。
2011-10-19 [長年日記]
_ [Jazz] I'll Be Glad When You're Dead, You Rascal You
平野達男という人が今復興担当大臣なんだそうで、彼が大震災の津波で亡くなった友人に関し、「私の高校の同級生のように逃げなかったばかなやつもいる。彼は亡くなったが」と言ったらしい(毎日新聞の記事)。それがけしからんということで、いよいよ野党アティテュードが板についてきた自民党が国会で追及するそうである。
こういうのは口調次第でニュアンスががらっと変わるわけで、あいつはばかだから死んだのだうははははざまあみやがれという意味だったのかもしれないし、親友への万感の惜別の情を込めて語ったのかもしれない。常識的には後者なんじゃないかと思うが、まあ、なんというか、もうどうでもいい。今回の件に限らず、メディア関係者を含めたこの国の国民の大多数はもはや手の込んだ修辞やそこに込められた複雑な感情を理解することが出来ないので、あきらめてすべてストレートにしゃべるのが良いと思う。かなしいです。ざんねんです。よくできました。
それはそうと、私がこの話を聞いて最初に思い出したのは、沢木耕太郎のエッセイ集「バーボン・ストリート」に収録された一篇「死んじまってうれしいぜ」だった。というか、平野氏の元ネタもこれなんじゃないのかね。
初めてロスアンゼルスに行った時の旅で、私はニューオリンズにも寄った。そして、賑やかなフレンチ・クォーターで何度かデキシーランド・ジャズを聞いた。そのフレンチ・クォーターでも最も繁華な通りであるバーボン・ストリートの、いかにも安っぽそうな店で聞いた陽気な数曲の中に、恐ろしく長い題名の曲があった。
I'll Be Glad When You're Dead, You Rascal You!
日本に帰って調べてみると、驚いたことにそれは葬送の曲だった。レコードで聞き直してみたが、それはニューオリンズで聞いたものよりさらに陽気に演奏されていた。ジャケットによれば、葬式が終わり、墓場から帰ってくる時の行進用にアレンジされているということだった。題名は訳せば次のようになる。
お前が死んじまって俺はうれしいぜ、この馬鹿野郎が!
ここには強い語調の底にたたえられた深い悲しみがある。うれしいぜという言葉には、天国に行かれてという意味が含まれているらしいが、むしろ反語としての意味の方が大きいように思われる。男が男を葬送する時の惜別の辞として、恐らくこれ以上のものはない。
たとえ一瞬のうちに了解し合えるような男と巡り会わなくとも、自分が死んだ時には、『死んじまってうれしいぜ、この馬鹿野郎が!』といってくれる友人を、ひとりくらいは持ちたいものだと思う。私にとって最大のオトギバナシとは、きっと、そういったところにあるのだろう。
縮めて「You Rascal You」というタイトルでも知られるこの曲は、伝統的なニューオリンズの葬式では「聖者の行進」と並び、葬式からの帰路に明るく演奏されるようである。サッチモやルイ・プリマの録音が代表的だ。歌詞にはいろいろなバージョンがあり、大方はきわどいスケベな歌詞(嫁を寝取りやがってこの野郎的)なのだが、やや穏当なものとして、例えばルイ・プリマはイタリア系なのでこんな風に歌った。
お前が死んじまってうれしいぜ、この馬鹿野郎
お前が墓に入ってうれしいぜ、このろくでなし
死んで墓に入ったお前は、もうラビオリを欲しがらないだろうな
お前が死んじまってうれしいぜ、この馬鹿野郎
お前が墓に入ってうれしいぜ、このろくでなし
お前を家へ食事に呼んだら、俺のミートボールを全部盗もうとしやがった
ああ、ろくでなしめが
お前が死んじまってうれしいぜ、この馬鹿野郎
お前が墓に入ってうれしいぜ、このろくでなし
連中がお前の棺を運ぶとき、俺はそこらで飲んだくれているよ
ああ、クソ野郎めが
お前が死んじまって、ほんとに、ほんとに、ほんとに、うれしいぜ、この馬鹿野郎
お前が死んじまってうれしいぜ、この馬鹿野郎、ああ
2011-10-30 [長年日記]
_ [Life] about.meとMOOの名刺
今年から仕事が変わってとある大学に勤めているのだが、公式な名刺を作って配ってくれた前職と違い、今回の職場は特にオフィシャルな名刺があるというわけではなく、名刺が欲しければ自分で勝手に作れというスタンスである。大学のロゴ画像などは、請求すればデータをくれるらしい。
で、どこで作ろうかなあと思いながら、Debian名刺かMIAU名刺でごまかして夏も越してしまったのだが、自分のプロフィールをこじゃれた感じで簡単に作れるサイトのabout.meがイギリスの印刷屋MOOと組んでおもしろいキャンペーンをやっていたので、思わず注文してしまった。キャンペーンそのものはabout.meでプロフィール・ページを作ると申し込むことが出来る(DashboardのOffersから)。ちなみに私のabout.meページはここにある。
何がおもしろいかというと、about.meの自分のプロフィール・サイトのデザインと似せた名刺を、ほぼ自動で作ってくれるというのですね。まあ似せるといってもしょせんはabout.meから背景画像を拾ってくるだけだが、裏面はこの画像、表には自分のabout.meサイトへのURLのQRコードと、名前など好きな情報が載せられる。初回は送料(4ユーロ弱)だけ負担すれば、50枚タダで送ってくれる(ただし裏面にMOOのロゴが小さく入る)。レイアウト等はMOO側に保存されているので、再注文も簡単である。紙質は厚めでマットだが(再生紙も選べる)、50枚で11ユーロ、200枚で34ユーロと、値段はそれなりだ(ただしタダで50枚もらうと、200枚頼むときに使える10%オフのクーポンが付いてくる)。10/18に注文して10/29に届いたが、まあイギリスから送っていることを考えれば早いほうだろう。
こうすれば、紙の名刺には最低限の不変情報だけ載せておき、TwitterやらFacebookやら、その他諸々の雑多な情報はインターネット上のabout.meサイトに載せて吸収するということが可能になる。肩書きや仕事が変わっても、あるいはソーシャルメディアの流行りが変わっても、名刺を捨てなくて良くなるわけだ。私のような、それなりに肩書きが変わることが多く、流行り物に弱く、おまけに名刺をそんなに配らない人間にとっては、なかなか便利なサービスと言えるだろう。
似たようなことは日本の名刺屋でもやろうと思えばできるのだろうが、このへんを流れ作業的にワンタッチで出来るのが面倒が無くてよい。about.meから情報を引っこ抜くあたり、技術的には大したことをやっているわけではないにせよ(MOOの印刷そのものはかなり自動化されているようで、それはそれで大したものだと思うが)、全体の流れがユーザエクスペリエンスとして大変洗練されているのは感心させられる。日本の企業はこのへんが弱いんですよねえ。
_ salt candy babe [秋の夜にはIf I love youとかどうですか(^ー^)ノ男性はリリカルな楽曲よりRamblin'のような男性的..]