2007-09-25
_ [Sun Ra] The Ark and the Ankh / Sun Ra and Henry Dumas
サン・ラーの作品はただでさえ玉石混交だが、中にはそもそも音楽として評価しようがないものが市場に出回っていたりもする。これなんかがその好例で、CDで出ているものの、これはそもそもアーケストラの演奏ではない。これは1966年、当時毎月曜にアーケストラが出演していたクラブ「スラッグス・サルーン」で、詩人・小説家のヘンリー・デュマスがサン・ラーにインタビューしたときの録音テープである。カタギの人がこれを買う必要はありません。
この時期デュマスはサン・ラーと非常に親しく、音楽活動にこそ参加していなかったもの、サン・ラーの事実上の「弟子」として付き合っていたようだ。この交友は短期間で終わった。1968年、デュマスが警官の「誤射」で殺害されてしまったからだ。
同じ黒人の詩人でも、リロイ・ジョーンズ(アミリ・バラカ)は日本でも若干の知名度があるのに対し、デュマスはほとんど知られていないように思われる。私も名前は知っていたが、作品を読んだことはなかった。短篇小説に関しては今ではEcho Tree: The Collected Short Fiction of Henry Dumas (Black Arts Movement Series)(Henry Dumas/Eugene Redmond)としてまとまった形で手に入るが、詩集は難しいようだ。
そこでこのあたりにあるデュマスの詩をいくつか読んでみたのだが、なんとも名状しがたい気分に襲われたので、試しにサン・ラー伝(ジョン・F・スウェッド/湯浅 恵子)に最後のヴァースだけ引用されていたOuter Space Bluesを訳してみた。黒人文化と宇宙との関わりというのは優に一編の論文に値するテーマだと思うが(野田努がどこかで書いていたような気もする)、それはそれとして最後の一文につながる展開にしびれる。私が言うのもなんだが、才能のある人だったと思う。しかし、原文の雰囲気を生かして詩を訳すのはとても難しい。
宇宙空間のブルーズ
ヘンリー・デュマス (1934-1968)
ねえみんな、こないだニュースを聞いたんだ
死ぬほど怖いニュースだったよ
世の中何が起こるかわからないもんだね
死ぬほど怖いニュースだったよ
テレビが言うには宇宙船がここに来るんだって
来たら人間は皆いなくなっちまうだろうね
でも言っておくけれど、宇宙船はそんなに悪いもののはずがないよ
みんなをからかうつもりはないけれど
宇宙船はそんなに悪いもののはずがないんだ
ぼくは生まれてこのかた地球にいて
生まれてこのかたずっと怒り狂ってたのだし
だから宇宙船が着陸しても
あんまり速く逃げないつもりだよ
だからね、あんまり速く逃げないつもりなんだ
ミシシッピまでたどり着いても
ぼくには渡れないって知ってるだろ
ちょっと待ってみんな、空飛ぶ円盤がやって来るよ
様子を見ようかな
ああそうとも、宇宙船がやって来るんだ
様子を見ようかな
ぼくに分かってることはね、きっと彼らはぼくにそっくりだってこと