2007-05-28 [長年日記]
_ [Music] First Bass / Oscar Pettiford
世界的なジャズ・レコード・コレクターの団体にIAJRC(International Association of Jazz Record Collectors)というのがあって、そこが出している私家版(?)のCD。私家版といってもご覧のとおりAmazonで買えます。
モダン・ベースの鼻祖、オスカー・ペティフォードのレア録音集という、どう考えても購買層が著しく限られる企画で、私にしてもペティフォードがどうこうというよりはフィニアス・ニューボーン・ジュニアの未公開録音目当てで注文したのだが、これは掘り出し物でした。一部EP/LP起こしで音質がぱっとしない部分もあるが、基本的にベースの音はよく拾えている。
最初の4曲は1953年の録音で、ハリー・ババシンとの2チェロにリズムセクションといういきなり訳のわからない編成。インペリアルからEPでいっぺん出ただけという超レアな音源らしい。ジャズのソロで弦楽器というのは大方キワモノという偏見があったので、大したことはあるまいと思っていたのだが、冒頭の(Too Marvelous for) Wordsが異様に良くて素直に脱帽した。うまい人が弾くとチェロもジャズのソロ楽器としてちゃんと成立するんですね。ピアノのアーノルド・ロスも好演。他の3曲も悪くないのだが、なんといっても1曲めはチェロの音色が曲想にはまりすぎなのだ。
続く2曲は1956年、ライオネル・ハンプトンのラージ・コンボでの録音。どうやらLP起こしらしく若干雑音が目立つが、聞きにくいというほどではない。ここでの聞き物はなんといってもピアノのオスカー・デナードだろう。エジプト演奏旅行の途上チフスにかかって32才の若さで死んでしまい、リーダー作がたった一枚(それも半ば私家録音のようなもので音質的にかなり問題あり)しかないこともあって後年伝説化された人だ。両手が独立した感じでうねうねと絡みまくるあたりは、なんとなく現代のブラッド・メルドーを予感させるものがある。ここでは割と普通に弾いていて若干物足りないが、それでも貴重なことには代わりない。
ベース・ソロイストとして堂々たるテクニックを披露したアッティラ・ゾラー、ケニー・クラークとのトリオ1曲(1958年録音)を挟み、いよいよフィニアス入りの演奏となる。これも1958年、Jazz From Carnegie Hallというパッケージ・ツアーでヨーロッパを巡演したときの記録で、リー・コニッツやズート・シムズが入ったマンチェスター「フリー・トレード・ホール」でのクインテット演奏が2曲、ストックホルムでのトリオ演奏が3曲という構成。「クインテット」といいつつ、最初のYardbird Suiteでは私が聞くかぎりフィニアスはピアノを弾いていないし、次のBohemia After Darkにしても後半ほんのちょっと弾くだけ(アナウンスはフィニアスがやっている)という具合で若干拍子抜けだが、それはともかくコニッツがスパっと素晴らしく切れ味の良いソロを取っているので、個人的には丸損とまでは言えない。
アナウンスをやらされていることからも分かるように、ここでのフィニアスはなんというか、添え物程度の扱いで(そもそもこのツアーでのメイン・ピアニストはレッド・ガーランド)、最後のトリオ・セッションも結局ペティフォードが前面に出て威張っているのだが、それでもそこかしこに天才の片鱗をかいま見せている。特に最後を飾るAll The Things You Areはフィニアスのフィーチュア・ナンバーと思しく、ピアノの機能をフルに使った華麗なソロが実に素晴らしい。同時期の私家録音Stockholm Jam Session, Vol. 1(Various Artists)やStockholm Jam Session, Vol. 2(Phineas Newborn)と比べれば音質的に若干ましなのもプラス。そのうちいーぐるでフィニアスの特集でもやりたいですね。
そういえば、このときペティフォード自身のフィーチュア曲としてStardustをやっているのだが、なんというか、笑ってしまうくらい威風堂々とした演奏ぶりで、さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想 (新潮文庫)(ビル クロウ/Bill Crow/村上 春樹)の一節を思い出してニヤニヤしてしまった。村上春樹の訳もうまく、これ以上にペティフォードのペティフォードたるゆえんを表現した文章を私は他に知らない。
オスカーのベース演奏は、1950年代のニューヨークのジャズ・シーンにおける堂々たる飾り物のごとき存在だった。とくにアンプを通さないガット弦の時代に向いた大きな音と、卓越したテクニックを彼は持っていた。僕が初めて実物を目の前に見たのは、西54丁目にあった「ル・ダウン・ビート」だった。これから無伴奏のベースで「スターダスト」をやりますと彼はアナウンスした。彼はそれをDフラットで弾いた。ベーシストにとっては難しいキイだ。(中略)
ヴァースを半分ばかりやったところで、オスカーは突然演奏を止め、マイクを手に取った。「静かに!」と彼はどすのきいた声で言った。店内のにぎやかなお喋りは、まるでスイッチを切られたようにさっと消えた。
「俺はこれでもう3年間このロクでもない曲に取り組んできたんだ」とオスカーは怒鳴った。「それに比べたら、俺がこれを演奏しているあいだ、たったの5分間黙っているくらいたいしたことじゃないだろうが!」
怒気を含んだ顔で、彼はまた曲に立ち戻り、まことに素晴らしい演奏を聴かせてくれた。その曲が終わるまで、客席からは物音ひとつ聞こえなかった。
ここでの演奏も実に素晴らしいです。
残りはペティフォード最期の年となった(9月に急死)1960年の録音で、マイルズのSo Whatについてああだこうだと語ったインタビューのあと、須永辰緒さんが取り上げたせいか最近クラブ系で妙に評価されている(らしい)ベント・アクセンがピアノを弾くThe Nearness of Youが続く。これまた、ペティフォードのソロを「拝聴する」というのがぴったりのナンバー。アルバムの最後を飾るのはアラン・ボッチンスキーやヤン・ヨハンソンといった当時の北欧の優秀なジャズメンを交えたセクステットの演奏で、タイトルこそ違うが演っているのは先ほど語っていたSo Whatだ。ただ、これはおそらくラスト・レコーディングとなった7月のMontmartre Blues(Oscar Pettiford)に収録の音源と同じものだと思う。
どうでもいい話。ライナーを書いているのはCoover Gazdarといって、1991年に世界で初めて(というかたぶん空前絶後)のペティフォード・ディスコグラフィを出版した人なのだが、なんとバンガロール(現ベンガルール)に住んでいたインド人だったらしい。あんなところにお住まいで、ペティフォードの世界的研究家とは恐れ入った。ちなみに残念ながら1998年、すでに他界されたとのこと。
_ [Fun] 安倍なつみは安倍晋三の娘?
Wikipediaの安倍晋三の項目、さっき私が見たときにはこんなくだりがあった。
Abe was born into a political family. His grandfather, Kan Abe, and father, Shintaro Abe, were both politicians. His mother, Yoko Kishi [1] (Kishi Yko), is the daughter of Nobusuke Kishi, who was Prime Minister of Japan from 1957 to 1960. He is as well the father of former Morning Musume member Natsumi Abe.(強調引用者)
仰天したのでモーニング娘。に詳しい知合いに聞いてみたが、もちろんなっちはシンゾーの娘ではない。しれっと書いてあるが、なんちゅうか、ほんとにあてになんないすね…。
あとで気がついたが、安倍なつみのページにまで安倍晋三への言及があった(”Her father Shinzo Abe is the current Prime Minister of Japan")。いたずらか、あるいはどこかの馬鹿が何かを鵜呑みにして書いた? いつのまにか英語圏では安倍首相==安倍なつみの親父説が常識になっていたりして。
ほぼ1時間で消されましたな。<br>http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Natsumi_Abe&diff=134123942&oldid=134113610<br>http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Shinzo_Abe&diff=next&oldid=134112976<br>こんなのはいくらでも。
それは一番最後に消されたときでしょう。http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Shinzo_Abe&diff=prev&oldid=133322152<br>を見ると分かりますが、最初にいたずら(?)されたのは5/25のことですよ。おまけに直ったのは、私がmixiに同じことを書いたのを見た知合いが修正したのがきっかけです。だから私が気づかなければもっと後まで残っていた可能性はありますね(というか、知合いが直したにも関わらず同じ奴が再度同内容を追加していたふしもある)。