2006-04-15 [長年日記]
_ [Music] Fats Navarro Memorial (aka Fats Bud-Klook-Sonny-Kinney)
ハードコア・ビバップの超名盤。耳が40年代の古い録音に慣れないうちは「なんだこの古くさい音楽は」と思うかも知れないが(私はそうでした)、ナヴァロの奔放でかつ構成美にも満ちた奇跡的なソロは、内容的に全く古びていない。ブラウニーが目標とし、マイルズはついに辿り着けなかった地点がここにある。ジョン・スコフィールドの愛聴盤でもあるらしい。
ところで、昔バド・パウエルのディスコグラフィーを編纂していて気がついたのだが、このセッションには別テイクが存在する。Mythic Soundから出たパウエルの拾遺集Burning in U.S.A., 53-55 / Earl Bud Powellに入っているBoppin' a Riff - Part 2とFat Boy - Part 1がそれで、しばらく私はMemorial収録の本テイクと同じものだろうと思っていたのだが、注意深く聞いてみるとソロを取る順序は本テイクとほぼ一緒(Boppin'〜のほうは中断→tp(ナヴァロ)→p→as→後テーマ、Fat Boyのほうはどちらも前テーマ→as→bs→tp→p→中断だが、本テイクではナヴァロが一人でソロを取るのに対し、別テイクではケニー・ドーハム→ナヴァロの順で分け合っている)なのに、ソロの内容が全然違う。特に後者の別テイクでは、明らかに先行したドーハムを食ってやろうというナヴァロの気合が感じられ、ナヴァロに限れば本テイクをしのぐ出来のソロになっていると思う。弱肉強食のバップ・セッションの恐ろしいところだ。後者本テイクの後半(Part 2の部分)では、なぜかトランペット抜きでフォーバースが延々と続くという展開があるのだが、これはもしかしてナヴァロの仕打ちにキレたドーハムが、スタジオを出てナヴァロと殴り合いの喧嘩でもやっていたからではないか…などと妄想してしまう。
とは言え別テイクは音質も悪いし(たぶんアセテート起こし)、アンサンブルもがたついているので、全体としては本テイクを凌駕する出来とは言えない。おそらくリハーサルの音源のリファレンスコピーがパウエル(というかフランシス・ポードラ)の手元にあったのではないかと思うのだが、昔出ていた「完全版」と称するものにも入っていない貴重な音源であることには間違いない。マニヤな人は血眼で探すことですな。