My Human Gets Me Blues

Syndicate RSS Syndicate LIRS

2003|02|03|05|06|08|09|10|11|12|
2004|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|05|06|07|09|10|11|12|
2006|02|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2009|01|02|03|04|05|06|08|09|10|
2010|05|06|
2011|04|05|09|10|12|
2012|01|10|12|
2015|08|

2006-04-17 [長年日記]

_ [Music] In Europe / Jack Walrath

In Europe(Jack Walrath)

昨年末、来日したミンガス・ビッグバンドを見に行った。正直言ってリーダーやスターが亡くなった後の追善興行の類にはあまり興味がないのだが、さすがに腕利き揃いで聞きどころも見どころも豊富な楽しいステージだった。あの人数だと費用的にいろいろ大変だとは思うが、また来ないかな。

ということで十分満足はしたのだが、それでも何となく物足りなかったのは確かだ。何というか、御大が生きていたころのミンガス・ミュージックには過剰なくらい存在したあのヘンな感じ、「ミンガス臭さ」と言っても良いのだが、そういった訳の分からないドロドロ感があまり感じられなかったのである。現在のバンドメンバによるクレバーで理性的な「解釈」からは抜け落ちてしまうところに、ミンガスのミンガスたる所以があったということなのだろうか。

ただ、一瞬だけミンガス的な空気が場を支配したことがあった。何の曲だったか忘れたが、年食った白人トランペッターがやおらバリバリとソロを取り始めたのである。これがジャック・ワルラスだった。

ワルラスはチャールズ・ミンガスが最後に率いたバンドのメンバだ。御大が亡くなるまで付き合った。当然ミンガスのラスト・レコーディングにも参加し、アレンジ面でも貢献している。その後もいろいろと面白い試みを展開してはいるのだが、一般的なポピュラリティにはあまり恵まれていない。白状すれば、私も去年まで彼自身の名義の作品は聞いたことがなかったのだが、ミンガス・ビッグバンドでの演奏がなかなか良かったので、現在入手可能な作品をいくつか買って聞いてみたのである。その中で、私が見た日のやみくもなソロの迫力に一番似ているかなと思えるのが、この1982年のライヴだ。17分だの14分弱だのと言った長尺の演奏ばかりだが、哀調を込めた曲作り(全曲自作)といい、共演者のレベルの高さといい、ハードバップが好きな方にはお勧めできると思う。ピアノのマイケル・コクランも好演。

しかし、黒人性に帰して語られることが多い「ミンガス臭さ」を、優秀な若手〜中堅黒人ジャズマンたちではなく、結局のところミンガスと共演した「に過ぎない」白人のワルラスが濃厚に持ち合わせているというのは、皮肉なものだと思った。