2009-03-06 [長年日記]
_ [Music] Out of Nowhere / Snooks Eaglin
このところ世間の動きに全く疎くなっていたのでさっきまで知らなかったのだが、スヌークス・イーグリンが先月18日に亡くなっていたそうだ。享年73歳、まあ歳といえば歳だが、そのうちもう一度くらい来日してくれるんじゃないかと思っていたので残念でならない。元々目が不自由だったこともあるし、やはりハリケーン・カトリーナ以後のストレスで体力が奪われたのだろうなあ。
スヌークスはジャズ、ロック、ブルーズその他を通じて私が最も好きなギタリストだが、早い話がギター版ローランド・カークみたいな人で、とにかく良い意味で音楽的に節操が無い。本業はニューオリンズR&Bというかブルーズだと思うのだが、気が向けばフォークギターだのジャズギターだの果てはフラメンコギターだののテクニックがこれでもかとばかりにポンポン飛び出してくる。それが単なるひけらかしではなく、スヌークスの音楽的個性の一部としてちゃんと咀嚼消化されているのが凄い。そういえば吾妻光良氏がどこかに書いていた話によると、スヌークスの演奏は、五本の指が完全に別々に動いている(例えば親指はメロディを弾きつつ人差し指でカッティングするとか)と考えないとつじつまが合わないそうである。私はギター弾けないので奏法的なことについてはさっぱり分からないのだが、確かにスヌークスがただごとでないことを軽々とこなしていることは、私のような素人でも聞けば分かる。象がピーナツの皮を剥くよりすごいことをやるねあいつは、という形容は、スヌークスにも当てはまるものであろう。レパートリーがフカシではなくほんとに一千曲以上というのも私のような物覚えの悪い人間には信じがたいことだ。ただ、少なくとも私にとっては、スヌークスの最大の魅力はその豊かな音色にある。ええ音なんですわこれが。
このアルバムは1988年の録音で、何というかまるで一貫性の無いレパートリーが、スヌークスの剛腕できちんとまとめられているという奇跡的な作品。ジャズのスタンダードをスヌークス風味で料理したタイトル曲も悪くはないが、個人的には、やはりアラン・トゥーサンの名曲Lipstick Traces (on a Cigarette)のカバーが最強に良いと思う。アイズリー・ブラザーズのあれのカバーも良い。とにかく泥臭いところが全く無い、洒脱としか言いようがないアルバムだ。生で見たかったなあ。