2008-11-28 [長年日記]
_ [Jazz] I Love The Life I Live / Mose Allison
以前ベン・シドランのことを取り上げた時も似たようなことを書いたが、日本にモーズ・アリソンの熱烈なファンという人がどれくらいいるのか、私には全く見当がつかない。たぶん5人くらい?
熱烈というほどではないが私もアリソンは結構好きで、ここ数年、彼のCDがそれなりに手元に溜まってきた。村上春樹氏もさよならバードランドの巻末「私的レコードガイド」でアリソンについて、「特に熱心にあつめたわけではないのだが、目についたものを買っているうちにけっこう沢山レコードがたまってしまった」とお書きになっていたが、全くもってそんな感じである。
当たり外れが少ないと言えば聞こえは良いけれど、裏を返せば時代を画する大傑作とか目が覚めるような問題作といったものは皆無ということでもあって、どれを聞いても基本的には同じ世界が広がっている。じゃあ一枚買えばそれでいいじゃないかと言う人もいるだろうが、そういう身も蓋もないことはアリソンに言わせておけば良いのであって、あなたが言う必要はないのである。ねじけてひねくれて愉しく後ろ向きなアリソン・ワンダーランドにどっぷり浸かって、なかなかうまいこと言うなあ、でも全然変わり映えしねえなあ、などとつぶやきながら一人で聞いて微妙な気分になるのがアリソンの音楽の正しい楽しみ方だ。
ところで、シドランにしろアリソンにしろ、このタイプのミュージシャンはどうしても皮肉の効いた歌詞の内容に最大の注目が集まるが、ピアニストやヴォーカリストとしてのアリソンの良さというのも無いことはないのである。ただ、それはなかなか明確に言語化しづらいものなのだ。ピアノもワンパターンと言えばワンパターンだし、歌にしてもあんな鼻声で音程も怪しい歌のどこがいいんだと難詰されると言葉に窮する。結局、あのピアノとヴォーカルの絡み具合が…というような、極めて感覚的なものなのですね。そこに身も蓋もない歌詞が加わって、独特の魅力が醸し出されることになる。
このCDは村上氏が前掲書で挙げていたものだが、元々CBSから出たこともあってたぶん世間的にもアリソンの代表作ということになるのではないかと思う。てっきりCD化されていないと思い込んでいたのだが、なんと3枚組(といってもボックスセットではなく、CD3枚を紙の箱に入れただけ)で出ていた。もう廃盤のようだがユーズドなら買える。最近はこればかり聞いている。
ちなみに、氏は「このレコードに入っている『アイ・ラヴ・ザ・ライフ・アイ・リヴ』という彼のオリジナル曲はとてもいい」と書いているが、もちろんこの曲はウィリー・ディクスンの曲である。「とてもいい」のには違いないけどね。