2007-11-05 [長年日記]
_ [Music] The Waiting Game / Tina Brooks
薄幸のテナーサックス奏者、ティナ・ブルックスがブルーノートに残した最後の録音。例によって録音当時は未発表のまま、はるか後年になってようやく日の目を見た。プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、お蔵入りの理由すら覚えていなかったそうである。
サックスを吹く人に言わせると、この人は技量的に下手なのだそうだ。私にとってはこの掠れたようなすがれたような独特のトーンが大変魅力的なのだが、楽器をやる人のセンスというのは普通のリスナーのセンスとずれていることが多いようで、今ひとつ良くわからない。半端なピアノ弾きがモンクを嫌うようなものだろうか。そういえばあのチャーリー・パーカーでさえ、自分のトーンに満足できなくて晩年はクラシックのサックス奏者、マルセル・ミュールに師事したがっていたと聞く。ミュールはもちろん偉大な音楽家だったのだろうが(聞いたことない)、作曲法やオーケストレーションならまだしも、楽器の扱いに関してパーカーが変なコンプレックスを抱く必要は全く無かったように思うのだが。
この作品は、True Blue(Tina Brooks)やBack to the Tracks(Tina Brooks)と比べるといろんな意味で若干小粒な感じは否めないものの、相変わらずブルックスらしい曲作りと演奏が楽しめる。メンバもなかなかの人選で、個人的には、ドラムを叩いているのがフィリー・ジョーというのが大きい。
とにかく哀愁というか湿気を帯びたいかにもハードバップらしいメロディを書かせたらこの人の右に出る者はいないのだが、この作品も出だしはあまりぱっとしないものの、3曲目くらいからはハードバップで煮染めたようなメロディの波状攻撃にノックアウトされる。唯一のスタンダード曲である5曲目もしみじみとした吹きっぷりで良い。正直に言うと情緒連綿というかもっちゃりしたマイナーメロディみたいなのは生理的に若干苦手なのだが、この人のはあまり嫌味に感じないのが不思議だ。そして最後を飾る6曲目のタイトル曲がちょっとラサーン・ローランド・カークのFly By Nightに似た感じの曲で、カッコ良いのですね、これが。
標題のThe Waiting Gameというのは待機戦術とか根比べという意味だが、正当な評価を受ける前に待ちくたびれてこの世を去ってしまったブルックスにとってはなんとも皮肉なタイトルである。もう少し何とかならなかったのかという気がしないでもないが、流行り廃りもあるし、まあ、どうしようもなかったのでしょうね。何はともあれ長生きしたものが勝ちという感を深くする今日この頃です。
パーカーの逸話について、そんな話があったんですね。<br><br>マルセルミュールは、間違いなくサックスの父であると思います<br>http://www.youtube.com/watch?v=mmnhuxQ8SGU