My Human Gets Me Blues

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2007-10-11 [長年日記]

_ [Music] Indent / Cecil Taylor

Indent(Cecil Taylor)

セシル・テイラーのソロ・ピアノというと、もう長いこと私はSilent Tongues(Cecil Taylor)を愛聴しているのだが、このところはこちらをよく聞いている。買ったばかりのころは今ひとつ親しみにくい印象があって敬遠していたのだが、最近ではこれもいいかな、と思い始めた。

ちょっと聞いただけでは金太郎飴の如くどれも同じに聞こえるセシルの音楽だが、やはり人間のやることだけに、出来不出来は言うに及ばず、作品によって質というか肌触りの違いみたいなものがある。そういう意味でSilent Tonguesは、センチメンタルというか、セシルの作品群の中ではかなり叙情的な方向に針が振れた音楽ではないかと私は思う。言い方を変えれば、セシルの作品にしては「甘み」が感じられるということだ。あれのどこがだよ、と難詰されると言葉に窮するのだが、何度も聞いてたどり着いた結論なのでいかんともしがたい。

で、こちらはどうかというと、これはセシルにしても甘さひかえめというか、もう頭から尻尾までハードボイルドな展開である。いつにも増してタッチは強靭、フレージングは精確、とにかくビシビシとピアノを痛めつけていく。すべての音が、ある内容を表現するために、音色音量音程含めて完全にコントロールされている、という印象。セシルのピアノを聞くと、十分油が注されて黒光りした鋼鉄機械が高速動作している、というイメージが頭をよぎるのだが、機械的ではあっても無機的ではないというか、むしろ妙に生々しいのがカッコいい。

そういえばいつも不思議に思うのだが、この人は高音域と低音域で明らかに音色というか、ソノリティが違う。ピアノを二台並べて左右の手で使い分けているように聞こえることすらあるのだが、もちろんそんなことはあるまい。たぶんペダルの使い方なんだろうな。

_ [Mingus] Village Vanguard 1975 / Charles Mingus

最近はマイルズのみならずジャズ系のブートが数多く出現するようになってきたが、ミンガスのブートも結構な枚数が出回っている。これは1975年4月15日「ヴィレッジ・ヴァンガード」出演時の記録(2枚組)。オーディエンス録音だが、下手なサウンドボードものよりもはるかに迫力のある音で録れていて驚いた。録った奴の座っていた位置が良かったのだろうか、バランスも申し分無い。正味の話、公式に出たミンガスのライヴ録音の大半よりも音質が良いような気すらする。

この時期のクインテットはジャック・ワルラス、ジョージ・アダムスという強力なフロントにドン・プーレンのピアノ、御大のベース、そしてダニー・リッチモンドがドラムスという強力な布陣で、おそらく1964年のドルフィー入りセクステット/クインテットを除けば、ミンガスが持った最強のレギュラー・グループだろう。ここでの演奏ではとにかくリッチモンドが冴えていて、バックから全員を強烈に煽りまくる。8ビートで料理した「フォーバス知事の寓話」(おじさんたちが叫んでいる歌詞から判断するにここではFables of Nixon, Rockefeller & Ford, Oh Lord, Help Mr. Fordと改名)がとにかく素晴らしい。カッコよさという点ではおそらく今まで聞いた「寓話」の中でピカイチだ。しかも16分でスパッと終わる! 40分とかだらだら続かない!

唯一の欠点は、2枚めになるとやたら客の会話がうるさいことだが、まあこれはしょうがないですな。しかし、この客ども、わざわざ金払ってライヴ聞きに行ってるのだろうに、なんで演奏中にぺちゃくちゃしゃべっていたのかなあ。金がもったいないではないか。