2004-07-11 [長年日記]
_ [Music] Dolphy Sound / Eric Dolphy
昨日帰りがけに渋谷のタワーレコードに寄ったら、このCDが1460円で大量に売られていた。私が昔買ったときはもっと高かったし、実は2枚組なので、1枚あたり730円ということで大変というか死ぬほどお買い得である。わざわざAmazonにリンク張っておいてなんだが、聞いたことがないという人は今すぐタワレコ行ってお買いなさい。
1963年7月1日と3日の録音をまとめたもので、元はと言えばジミヘンのプロデューサとしても有名なアラン・ダグラスがプロデュースしたセッションなのだが、そもそもひと続きの録音なのに、なぜか半分はフレッド・マイルスの個人レーベルであるFred Milesから「Conversations」として、もう半分はダグラス自身の個人レーベルであるDouglas Internationalから「Iron Man」として発表された。その後原盤権はいろいろなところを点々とするのだが、基本的にConversationsの権利はVee Jay経由でRCA系列へ、Iron Manの権利はEpic経由でCBSソニー系列に流れていったので、同一セッション由来なのにいつまでたっても正式には集大成されないという妙な事態に陥っていたようである。その上、何度も何度も別個にタイトルやジャケットデザインを変えて再発され、海賊盤も世界各地から出現し、その度に曲名やクレジットが間違っていたという可哀想な作品なのだ。結果として一般的な知名度は、例えばブッカー・リトルとのFive Spotでのライヴ盤などに比べればかなり低いだろう。
ついでに言うと、このCDもいちおうIssued under license云々とは書いてはあるし、普通の販路に乗っているわけだが、権利関係はかなり怪しいのではないかと思う。Made In Portugalというあたりと、それなりに手の込んだジャケットデザイン etc. から見て、昔ズート・シムズやデクスター・ゴードンのこれまた甚だ素性の怪しいライヴ盤を出していたのと同じ連中が出しているんではないかと思うが、まあ後で述べる点を除けば全体的にはいい仕事だと思います。音質も悪くないし。
さて、肝心の内容はというと、一貫性こそないが絶句するほど素晴らしい。最高傑作と称されるブルーノートのOut To Lunchももちろんヤバいので、聞いたことがないお前ら(特に菊地成孔のファン)は当然可及的速やかに買うべきだが、どちらかというと「ぱっと聴き」にはこちらのほうが親しみやすいのではないか。全体にOut To Lunchと比べて曲調に明るさが漂っているし、アレンジも含め、ドルフィーの音楽がハードバップの「素直な」延長線上にあるというのが実によく分かる演奏なのである。それにしても、ベースとのデュオという珍しい形式で、バスクラリネットを淡々と吹くCome Sundayは映画のラストシーンか何かで使われたらまじ泣きそうな名演だ。ファッツ・ウォーラーの古い作品を取り上げたJitterbug Waltzも、なんのひねりもないのに明るいとも暗いとも言いがたい何とも言えない後味を残す傑作だと思う。
それはそうと余計なことを書いておくと、実はこのセッションには残りテープが存在すると言われている。Musesという完全未発表曲に加えてAlone Together、Iron Man、Mandrakeの各曲の別テイク、計4曲らしいのだが、まだいっぺんも表に出たことはない。
で、このCDにはContains Two Previously Unreleased BONUS TRACKSとかでかでかと書いてあるもので、いやがうえにも期待が高まるわけだが、当然「なんで2つしか入ってないんだ?」という疑念が湧く。しかも曲目がデータと違う。
種明かしをすると、まず2枚めの最後にBONUS TRACKと大書されているStormy WeatherはCandid盤Candid Dolphyに入っていたやつと同じである。どこがunreleasedなんだ? というかそもそも同一セッションじゃないですよ? だいたいベース弾いてるのはチャールズ・ミンガスだ。
このあたりでかなりブチ切れるわけだが、もう一曲の「BONUS TRACK」が分からんのですわ。Wherever I Goというタイトルがついていて、ドラムはどう考えてもチコ・ハミルトンだし、チェロがドルフィーのアルトとメロディをユニゾンで弾いてるし、明らかにドルフィーがチコ・ハミルトンのクインテットにいたころのスタジオ音源なのだが、私が知っている限りではこのグループはWherever I Goなんて曲は録音していないと思う。もちろん知らないだけかもしれないが、しかしこの音源の出どころはどこなんだろう。
それはともかく、少なくともFred Milesがらみの権利は現在では、ブルーズやジャズの新録で稼いでサン・ラーのSaturn音源をCD化しまくっていたあのキチガイ(誉めています)ジェリー・ゴードンのレーベルEvidenceが持っているはずなので、あそこからひょっこり出てくることを祈りたいものである。
Wherever I Goですが、CHICO HAMILTON: Albums: GONGS EAST http://store.artistdirect.com/store/artist/album/0,,97947,00.html の7)Tuesday at Two でしょうか。