2006-11-12
_ [Music] Music For Two / Bela Fleck & Edgar Meyer
バンジョーというとなんだか古くさいイメージがあるが、ベラ・フレックはバンジョーをブルーグラスやジャグバンドといったジャンルに縛り付けず、完全にギターと同列の一楽器として扱っている。なのでジャズでもファンクでもクラシックでもなんでも弾いてしまう。それだけなら大したことはないが、ノベルティと言うに留まらない音楽的成果を挙げているところが凄い。歴史をたどればバンジョーは三味線の遠い親戚なのだが(ほんとにそうなのです)、純邦楽以外の分野への三味線の進出があまり特筆すべき成果を生んでいないことと比べると、この人の偉さが際立つと思う。
このアルバムはベースのエドガー・メイヤーと組んだデュオのライヴ盤で、メイヤーもとんでもないテクニシャンだ。ピアノも結構うまい。2002年にRMSと同じマッカーサー財団のフェローシップを受賞しているくらいの人である。バカテクな人というのは結局早弾きができる自分に酔っているだけで、音楽としては曲芸という以上の深さは無いことが往々にしてあるのだが、この二人の場合超絶技巧がきちんと表現に奉仕している。なにせレパートリにバッハとマイルズ・デイヴィスが共存しているくらいでカテゴライズの難しい音楽だが、単純におもしろいのでクラシック・ファンもジャズ・ファンもロック・ファンも是非聞いてみてください。
2007-11-12
_ [Music] A Tribute To Brother Weldon / Monk Hughes & The Outer Realm
買ったときは、MADLIBというのが誰なのか(というより何なのかすら)知らなかったので、当然モンク・ヒューズとかいうベーシストが率いるグループが演奏しているんだろうと思っていたのである。きょうびウェルドン・アーヴァインのトリビュートとは随分渋いことをやる奴がいるな、というくらいの気分で不見点で買ったのだ。
一応説明しておくと、ライナーにはパーソネルとしてジョー・マクデュフリー(p)だのモーガン・アダムズIII世(org)だのと麗々しく書いてあるが、これはジョン・ファディスの甥っ子でヒップホップのトラックメーカー/プロデューサーとして有名なマッドリブことオーティス・ジャクソン Jr.という人が、一人で全楽器を演奏(ないしサンプリング)したものだ。なので、モンク・ヒューズだの何だのという「メンバ」は実在せず、全てマッドリブの別名義というか仮名なのだが、ドラマーのクレジットだけは本名のOtis Jackson Jr.となっている。おまけにこういう仮名が、セロニアス・モンクやモンク・ヒギンズをいやでも想起させる「モンク・ヒューズ」とか、いかにもジャズマンくさい名前になっていて、なかなかよく出来ているのですね。
最初はドラムはよれよれ、エレピはへろへろ、あまり意図してやっているとも思えない不協和音という有様でどうなることやらという感じなのだが、4曲目あたりから音楽的にも聞き手の側も焦点が定まってきて、そのうち何だか気持ちが良くなってくる。ここに籠もった何とも言えないじんわりした熱気は、昔のある種のジャズが湛えていた「雰囲気」に非常に近い。狙ってこれを生み出しているとしたら大したものだなあ。
マッドリブは他にもジャズっぽい作品を手がけていて、そういう時は基本的にYesterdays New Quintetという名義でやっているのだが(Stevie(Yesterdays New Quintet ( Madlib ))なんかがそう)、この名前を考え付いた時点でマッドリブの勝ちだと思った。もちろんMJQの本歌取りなのだが、それにしても、昨日新しい音楽、というほどジャズをうまく形容する言葉はないですね。昨日の時点で今日の音楽をやろうともがく、というのが、少なくとも「モダン」ジャズの精神ではあったと私は思うので。