2007-06-21
_ [Music] Spiders on the Keys / James Booker
ビル・エヴァンスやキース・ジャレットのように弾きたいと思ったことは一度も無いのだが、ジェイムズ・ブッカーのように弾けたらいいなとは良く思う。とにかく引き出しが豊富で、どんな曲でも、いかようにも料理してしまう。それでいて弾いているのがブッカーであることはすぐ分かる。ギターのスヌークス・イーグリンもそうだが、あらゆるスタイルを自家薬籠中のものにしつつ、その上に自分らしさを加味するというのは並大抵の個性ではない。テクニックは折り紙付きなのは言うまでもないが、個人的にはこの人独特の強靭なタッチに強く惹かれる。
このアルバムは、1977年から最晩年の1982年に至るまで根城としていたニューオリンズの「メイプルリーフ・バー」における録音から選曲したもの。音質は今ひとつ(というかピアノがいかにも安物)だが、ヴォーカルを取っていないテイクばかりなので、ピアニストとしてのブッカーの実力が十分に味わえる。「蜜の味」を正調クラシック風に弾いたり、Malaguenaをこってりとスパニッシュ風味に仕上げたり、完全即興と思われるブルーズを延々と弾いてみたり(5分強に編集されているが実際は30分近く続いたらしい)、やりたい放題だ。明るい曲もあるが、全体としては隠花植物的なメランコリーに貫かれているのも魅力。
ジャケの異様な風体からも想像は付くように(ちなみに眼帯しているが別に目が悪かったわけではない)、変わり者というか精神的に不安定な人だったようで、最期も酒とドラッグで若死にしてしまったが、できれば生で見てみたかった人の一人だ。