2007-10-02 [長年日記]
_ [Music] Piano Man / Hilton Ruiz
去年、そんな歳でもなかったのに酔っ払って倒れたら打ちどころが悪くて死んでしまったヒルトン・ルイスのデビュー作。久々に日本盤が出たようなので紹介する気になった。
このアルバムに関しては個人的な思い出がある。大昔、ニューヨーク州、と言っても北のほうのとんでもない片田舎に住んでいたのだが、身辺が落ち着いたころに電車でニューヨーク・シティに行く機会があった。そのころから若干頭がおかしかったもので、自由の女神に登るとかメン・イン・ブラックの本拠地を訪ねるとかそういう真っ当な観光はせず、とりあえずタイムズ・スクエアのヴァージン・メガストアに飛び込んでCDを物色したのである。そして何枚かCDを買ったのだが、その中にこのアルバムがあった。なぜ買ったのかはよく覚えていないが、やはりジャケの麦わら帽子男にインパクトがありましたかね。以来、日本に帰ってきてからも折に触れてよく聞いている。
バスター・ウィリアムズにビリー・ヒギンズというベテラン2人で脇を固めた、新人のリーダーデビューとしては申し分の無い一枚で(まあ新人とは言ってもすでにジャッキー・マクリーンやローランド・カークらのサイドマンを務めた経験はあったが)、よく聞けば結構荒っぽい演奏ではあるのだが、そこはナチュラルなリズム感と勢いの良さで押し切って聞く者を飽きさせない。選曲もラテンのバックグラウンドを活かした魅力的なオリジナルに加え、コルトレーンの難曲を取り上げてみたり、こってりとしたブルーズを10分耐え抜いたり、なかなかの頑張りを見せている。
若くして才を見出された人、特にピアニストのデビュー作は、往々にして独特の爽やかで青い空気感を漂わせることが多いように思うのだが(例えばミシェル・ペトルチアーニの「赤ペト」)、この作品も例外ではないように思う。完成度とか、音楽的な厚みとか、そういったものさしで測ればまあ、いろいろけちもつけられるのでしょうが、これはこれでなかなかいいものです。