2006-11-02 [長年日記]
_ [Music] Live in Tokyo / Brad Mehldau
わざわざ後藤さんが反応してくださったのでメルドー話の続き。
このライヴ、実は最前列のしかも中央、すなわちメルドーのまん前で見ていました。といっても別に気合をいれてチケットを取ったというわけでもなくて、急に用事で行けなくなったという知り合いからチケット買い叩いたらたまたまものすごく良い席だったというだけなんですけど。まあ話の種にいっちょ見ておくか、というくらいの気分で。
今でもはっきり覚えているのは、メルドーがグールドばりに蒸しタオルを持って登場したこと。正直ちょっと演出がクサいなあと思いました。ただ、全体的にはエレゲイア・サイクル(ブラッド・メルドー)やトリオもののCDを聞いて勝手に想像していたほどゲイ耽美的という感じはせず、むしろヘルシーな印象でしたね。照明の当たり具合の問題かもしれないが。
ライヴ本編は、率直に言えば可もなく不可もなしだったような覚えがあります。今CDになったものを聞くとそれなりに聞きどころはあるのですが、その場にいて生で聞いてもあんまりピンと来なかった。技術的にも楽想もものすごくレベルの高い即興なのは明らかで、曲目もモンクからポール・サイモンまで幅広く、しかもすべて自家薬籠中のものにしている。でも、どこか生硬い感じがしてウキウキとした高揚感みたいなものはあまりない。ピアノソロに高揚を求めてんのかよお前という話もありますが。
で、これで話が終われば、やっぱお前メルドー嫌いなだけじゃんと言われてそれまでなんですけど、ここからが重要。
本編が終わって、アンコールになったのです。確か、拍手に促されて袖から出てきて一曲弾いてはまた引っ込むという感じだったと思う。レイディオヘッドの曲とか何曲か弾いたんだが、一番最後のアンコールでソングス:アート・オブ・ザ・トリオ Vol.3(ブラッド・メルドー/ラリー・グレナディア/ホルヘ・ロッシィ)でやっていたRiver Manを弾いた。これがものすごくよかった。涙が出るくらい。元々ニック・ドレイクの原曲が好きということもあるのだが、もうこれは超絶的に良かった。あまりにしびれたので、帰り道すぐさま友人に電話して感想をしゃべりまくるということまでしたのでした。私、これまでいろんなライヴ見ていますけど、終わってすぐ感動のあまり他人に電話するというのは空前絶後だったような気がします。見てもいないライヴの感想聞かされるほうは迷惑だったろうなあ。面白いことに、その演奏はCDにも入ってるのだけど、今聞いてもあんまりグッと来ない。たぶんその場の空気と私の意識が同調してたんでしょうね。むしろThe Art of the Trio, Vol. 4: Back at the Vanguard(Brad Mehldau)の後半、SolarとかExit Musicあたりの盛り上がりを聞くと、そのときの気分をかすかに思い出すことがある。
ということで、メルドーはあんまり好きじゃないというのは別に嘘ではないんだけれど、とても良い思いをさせてもらったこともあるので、なかなかミュージシャンの評価は難しいねというお話でした。
輸入盤ショート・バージョンでの感想です。録音の音質がライヴ過ぎて、ちょっとジャズっぽくないなあというのが第一印象。次いで、メルドーらしい個性という点では、『エレゲイア・サイクル』の方がハッキリしていると思いました。悪く言うと、水で薄めたキースみたい。でも《リヴァー・マン》は良かったですよ。
ホールの音響の良さは、確かにジャズっぽさと言う意味ではマイナスに働いていたかもしれません。<br>「水で薄めたキース」というのは言い得て妙ですね。いずれにせよ、メルドーが本領を発揮したのはライヴの後半(もっと言ってしまえばアンコールに入ってから)だったような気がします。やっぱり緊張していたんですかねえ。ソロ・コンサートはやったことがなかったんだろうか。