2004-09-28 [長年日記]
_ [Music] Oscar Peterson Plays Count Basie / Oscar Peterson
10年くらい前に一度CD化(輸入盤、日本盤共に)されたきり、長らく廃盤状態だったこの作品が、ようやく紙ジャケで再発されたようだ。悪いことは言わないので、ジャズピアノに多少なりとも興味がある人間は黙ってこれを買うべきである。初回限定らしいし。
昔々、一曲目に収められた超猛スピードのLester Leaps Inを聞いて、ピアノをうまく弾きたいなあと初めて切実に思ったのだった 。そういう個人的な思い出を差し引いて、現時点で冷静に聞き直してもやはりとんでもない演奏だと思う。表現に結びつかない単なる速弾きは、曲芸みたいなものなのでどうでもいいと思っているのだが、それでもなお、本当に物凄いテクニックというのはそれだけで聞き手を圧倒する力がある、というのが、この演奏を聞くとよく分かる。
ピーターソン本人の目覚しいテクニックの冴えもさることながら、この時期のピーターソン・トリオ(プラス、バディ・リッチがドラムスというのもうれしい)ならでは鉄壁のコンビネーションも素晴らしい。実に細かいところまでアレンジが利かせてあり、「一糸乱れぬ」と言う表現がまさにぴったり。9:20 Specialなどミディアム・テンポの曲における粋な唄わせ方がまたいい。今の耳には多少古くさく聞こえるスタイルかもしれないが、これもまたジャズピアノの極北だと思うのだ。
ピーターソンはまだ存命だし、今年も上原ひろみを前座に来日したらしいが、相当な高齢の上脳卒中の後遺症もあって、このアルバムで聞けるような豪快で華麗なキーさばきはもはや望むべくもない。ピーターソンというと、ちょっとジャズをかじった人間には大衆的な分かり易い音楽の典型のように思われてしまうふしがあって、私自身も一時はなんとなくかっこ悪いような気がして聞くのを避けていたのだが、このアルバムなどを聞くと、今さらのように失われたものの大きさに気づくのである。奇を衒わずに、メインストリームを極めるというのは、実際、ほんとうに、大変なことなのだ。